“2021年のMVP"ラウ・アレハンドロ 全ポップミュージックリスナーが素通りできなくなったレゲトンの進化
そんなレゲトンシーンにおいて、いや、グローバルのポップシーン全体を見渡しても、2021年のMVP的な存在と言えるのがプエルトリコのRauw Alejandroだ。彼の2ndアルバム『Vice Versa』は、TikTok発で広まりYouTubeで4億5500万回再生(2022年1月現在)のグローバルメガヒットとなったリード曲「Todo de Ti」を足がかりに、ディスコミュージック、ハウス、ボレロ、ブラジリアンファンクなど、北米/南米を問わないパンアメリカ的な要素をレゲトンに持ち込み、このジャンルの音楽的なポテンシャルの大きさと深さを示してみせた。また、『Vice Versa』リリース前後にも、Rauw Alejandroは地元プエルトリコの先輩であるLuis FonsiやYandel、アルゼンチンの若手ラッパー、Nicki Nicoleから、Jennifer LopezやSelena Gomez、Chris Brownといったグローバルスーパースターまで、ジャンルも国籍もクロスオーバーしたアーティストたちとの共演曲を毎月(時期によっては毎週)のようにリリース。その多くが、典型的なレゲトンのビートには収まらないプログレッシブな楽曲だった。
重要なのは、どれだけその支持が世界中で広がろうとも、コラボレーション相手が英語圏のアーティストであっても、一貫してRauw Alejandroがスペイン語で歌っている/ラップしていることだ。これはコロンビア出身のJ. Balvinにせよ、同じプエルトリコ出身のBad Bunnyにせよ、先行するレゲトンシーン発のグローバルスターにとっても一つの暗黙の掟となっている。その理由は前述した通り、ラテンのコミュニティ、そして言語(スペイン語)こそが、レゲトンのアイデンティティだからだろう。昨夏におこなったRauw Alejandroへのインタビュー(今のところ日本のジャーナリストがおこなった唯一のインタビューのはず)で、彼はこのように語っていた。
「レゲトンのシーンは、ニューカマーとベテランのアーティストが入り乱れつつ、互いに共存し、互いに影響を受けながら助け合うところが特徴なんだ。歴史的にもラテンのコミュニティにおいて音楽は非常に重要な役割を担っていて、だからこそベテランはニューカマーに手を差し伸べて、ニューカマーも伝統的なラテンのジャンルを積極的に取り入れて、ラテンポップ全体の発展を常に第一に考えている。俺は最近マイアミに引っ越したけど、それでもプエルトリコとプエルトリコのファンとは100%繋がっていると感じてるよ。スペイン語で歌い続けているのは、仮に歌詞の意味が100%分からなくとも世界中の人々が楽しめる音楽が作れることを証明したいからでもある。実際に、アメリカ以外でも、フランス、イタリア、中東といったスペイン語が母国語でない多くの国や地域でレゲトンはすでに大きな支持を得ている」
同インタビューでは、非英語圏のポップミュージックでありながら世界中で新しいファンを開拓しているK-POPにもシンパシーを覚えているとも話していたRauw Alejandro。昨年末にリリースされた久々の単独名義での新曲「Hunter」は、一転してハードコアなラテントラップにシフトチェンジ。同曲は1stアルバムよりも前の2019年にリリースした7曲収録のEP『Trap Cake, Vol.1』に続く3年ぶりの続編『Trap Cake, Vol.2』のリード曲となる予定だ。アメリカではラテン系の移民や2世だけでなく、一般の若いリスナーにもすっかり浸透しているレゲトンだが、Rauw Alejandroはそのシーンを背負うというより、独自のニューモードへと突入している。その圧倒的なアウトプットの質と量(Becky G言うところの「200%の努力」)が続く限り、2022年も引き続きこの男がグローバルポップシーンの台風の目となるに違いない。
※1:https://time.com/6125601/best-songs-2021/
※2:https://www.rollingstone.com/music/music-lists/best-albums-2021-list-1260864/st-vincent-daddys-home-1260928/
■リリース情報
ラウ・アレハンドロ
『Vice Versa』
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