藤井 風、各方面から注目集める所以 『紅白』初出場を前に3つのポイントから解説

 シンガーソングライターの藤井 風が『第72回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場する。昨年デビューした藤井は今回が初出場となるわけだが、音楽番組での歌唱自体も初めて。そのため注目度はひときわ高く、この晴れの舞台で彼がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか期待している人も多いだろう。また、今回の放送で彼の存在を初めて知る人も少なくないはず。そこで、改めて藤井 風がどのようなアーティストなのか、その魅力を解説しておきたい。

 藤井 風は、1997年生まれ岡山県出身のシンガーソングライター。幼少期よりピアノに親しみ、父親の影響で幅広い音楽に触れていた彼は、12歳の時にYouTubeにピアノを演奏する動画を初投稿する。その後、高校卒業と同時にピアノの弾き語りによるカバー動画の投稿を再開すると、その確かな演奏技術と独創的なアレンジが話題になっていく。2019年に上京し本格的に音楽活動を始めると、2020年1月に1st EP『何なんw EP』をリリース。続いてコロナ禍真っ只中の同年5月に、1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』を発売した。このアルバムは『第13回CDショップ大賞2021』で大賞(青)を受賞するなど、各方面から高い評価を獲得。一躍注目アーティストへと駆け上がった。

藤井 風(Fujii Kaze) - “何なんw”(Nan-Nan) at 日本武道館(Nippon Budokan)

並外れたパフォーマンス力

 彼の魅力の一つが、まずそのパフォーマンス力である。YouTubeに投稿されているカバー動画はもちろんのこと、不定期で行っている生配信では視聴者がリクエストした楽曲をその場で弾き語りアレンジし、毎回ファンを楽しませている。いずれも引き出しの多さや人の心を掴む表現力、絶妙なアレンジ力が伝わるもので、簡単に見えるようだが難しいことをさらりとやってのける爽やかさがある。正直、ピアノの演奏だけでも十分に人を感動させられる才能の持ち主だが、それに加えて、渋さと色っぽさを兼ね備えた歌声も紛れもない彼の魅力の一つだ。

 9月に開催した日産スタジアムでの無観客ワンマンライブ『Fujii Kaze "Free" Live 2021 at NISSAN stadium』では、広いグラウンドの中にピアノ一台で登場し、約17万人の視聴者に向けて生パフォーマンスを披露した。曲の合間にハンドクラップをしてみたり、変顔を挟んでみたり、アカペラで歌い始めてみたりと、自身の魅力を存分に発揮していたが、表現の多彩さや即興力を含めた総合力に関しては、もはやシーンでもトップクラスと言っていいだろう。ステージで歌うという、純粋なパフォーマンス面について並外れたスキルを持っていると感じた。

Fujii Kaze "Free" Live 2021 at NISSAN stadium

類稀な作曲力

 とりわけ作曲力については特筆すべきものがある。今年1月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で川谷絵音は「罪の香り」を例に彼の作曲センスを絶賛していたが、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーさを持ちつつ、ありそうでなかった(けれども普遍性のある)フレーズを生み出す独創性が彼の真骨頂だ。また以前、ラジオ番組『藤井 風のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)では、作詞についての質問に「メロディに呼ばれる言葉を探せ」と答えていた。その発言が象徴しているように、言葉とメロディの結び付きが常に美しいのだ。

藤井 風 - "きらり" Official Video

 例えば、今回『紅白歌合戦』で披露する「きらり」で言えば、サビ終わりの〈どこまでも どこまでも〉で、本当にどこまでも行ってしまいたくなるような感覚を覚えたり、〈ゆらり〉でメロディを実際に揺らしてみたりと、詞と旋律の絡み合いが心地よい。Honda『VEZEL e:HEV』のCMソングとして書き下ろしたのも意識したのか、終盤でギアをぐいぐいと上げていくような作りも見事。日本語特有の語感を生かした言葉遊び的なセンスと、世の中の真理を突くようなフレーズを自在に織り交ぜることで、軽快でありながら深みのあるポップスに仕上げている。

関連記事