一途な愛、不屈の信念……King GnuやEveが音楽で提示する『呪術廻戦』における“呪い”の解釈
12月24日、「百鬼夜行」の決行日であるその日、ついに『劇場版 呪術廻戦 0』の公開が始まった。配給の東宝が、「観客動員100万人超え&興行収入100億円突破は確実」であると発表したことも大きな話題となっているが、今作はすでに年末の映画興行シーンを席巻しており、この勢いは間違いなく2022年へと続いていくだろう。昨年のアニメ化から今回の劇場版の公開に至るまで、『呪術廻戦』は、ポップカルチャーのシーンを越えて、今や完全に社会現象と化しており、そうした勢いを後押ししている要素の一つが、それぞれの主題歌であると思う。これまで、Who-ya Extendedの「VIVID VICE」、Cö shu Nie「give it back」など、新進気鋭のアーティストの楽曲が『呪術廻戦』の世界を彩ってきたが、今回はその中でも特に大きな話題となっている3曲をピックアップした。それぞれの楽曲と『呪術廻戦』の結び付きを軸にしながら紹介していきたい。
1曲目が、Eveによるアニメの第1クールオープニングテーマ「廻廻奇譚」だ。アニメ映像とコラボレーションした「廻廻奇譚 Live Film ver.」の再生回数は2100万回を突破した。『呪術廻戦』と言えば、真っ先にこの曲を想起する人は多いはずだ。なお、12月24日に放送された『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE 2021』の番組内企画を受けて、「廻廻奇譚」がTwitterでトレンド入りを果たし、リリースから1年以上経った今も根強い人気があることが証明された。
今さら説明不要かもしれないが、Eveの表現者としての歩みは、いつもアニメと共にある。Eveの楽曲のMVは、全てアニメーションで制作されており、その意味で、Eveの音楽はアニメと表裏一体の関係にあると言える。そして「廻廻奇譚」は、今まで音楽を軸として、様々なクリエイターの力を借りながら作品を作ってきたEveが、アニメ(および、原作漫画)を軸に書き下ろした楽曲となった。もともと彼自身、原作漫画のファンであり、12月23日に放送された番組『NHK MUSIC SPECIAL Eve』では、「主人公・虎杖悠仁の生き様は、自分としても共感できるものがあった」と語っていた。実際に同曲の歌詞には、〈闇を祓って〉といった熾烈な戦いをイメージさせるフレーズや、〈今はただ呪い呪われた僕の未来を創造して〉といった不屈の信念を想起させる言葉が数多く用いられている。楽曲の疾走感やダークなテイストも相まって、『呪術廻戦』の世界に見事に寄り添う楽曲となっていることは、改めて言うまでもないと思う。
2曲目は、King Gnuが今回の劇場版の主題歌として書き下ろした「一途」だ。映画の公開前から、予告編や地上波の音楽番組を通して耳にしていた人も多かっただろう。まず、これまでのKing Gnuの楽曲の中で、いや、長きにわたるJ-POP史を振り返っても、これほどまでに激しく真っ直ぐで、もはや破滅的とも捉えられるラブソングは極めて稀だと思う。〈一途に愛します〉という一節や曲名が表しているように、まさに「一途」な想いを、その勢いも誠実さも一切削ぐことなく結実させた同曲は、今回の劇場版の「愛と呪いの物語」を加速させる役割を担っている。
特に、この曲を締めるラストの一節がすごい。
〈最期にもう一度/力を貸して/その後はもう/何も要らないよ/僕の未来も心も体も/あなたにあげるよ/全部全部〉
作詞作曲を手掛けた常田大希が、「里香ちゃんと乙骨憂太の関係は羨ましいほどに、そして呪わしいほどに一途ですね」とコメントしていることからも明白なように、この楽曲の歌詞は、乙骨憂太と祈本里香の関係性を表すものだ。King Gnu は、この2人の壮絶な物語を、攻撃的な楽曲によって表現してみせた。バンドメンバーが抱く原作への愛と理解と敬意が伝わってくるし、今回の映画の壮絶さに対して、真っ向から勝負に挑んだ彼らの気概にも痺れる。