伊波杏樹、自分と向き合って表現していく生き様 「必要とあらば駆けつけて、手を差し伸べる人間でありたい」

伊波杏樹、表現していく生き様

 TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』のユニット Aqoursのメンバーとして、2018年末の『第69回NHK紅白歌合戦』にも出場している傍ら、数多くの舞台に立つ役者としても活動中。今も舞台『「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage 本物の英雄 PLUS ULTRA ver.』にトガヒミコ役として出演している。そんな声優・舞台女優として活躍する伊波杏樹が、初めてのオリジナルフルアルバム『Fly Out!! NamiotO vol.0.5 〜Original collection〜』を12月8日にリリースした。ほぼ全ての作詞を伊波本人が手がけ、ラストに収録された「また会えるよ。」では作詞作曲を担当している。多彩な楽曲と感性豊かな歌詞、まるでミュージカルを演じるような歌の表現力。伊波杏樹の生き様が詰まったこのアルバムで、新たな世界へ今まさにテイクオフしようとしている。(榑林史章)

「作詞は芝居の役作りにも近い」

ーー初のフルアルバム『Fly Out!! NamiotO vol.0.5 〜Original collection〜』ということですが、どうして“vol 0.5”なのですか。

伊波杏樹(以下、伊波):もともと『NamiotO vol 0.5』シリーズは、伊波杏樹を好きでいてくださる皆さんだけに向けて、背中を押したり思いを届けるためのツールとしてスタートしていて、これまでにカバーとオリジナルのシングルを2枚作りました。『NamiotO』は伊波の音、つまり私自身の歌のこと。役や作品など様々な形の狭間にいる自分を表現するために、今は1でも0でもなく“0.5”とつけて始まっています。今作にも『NamiotO vol 0.5』とつけたのは、そのシリーズの集大成になるものだという覚悟を持って作ったからです。この『Fly Out!!』を持って、今後、私の物語が“0”から始まるのか“1”からになるのか、どうなるのかまだわかりませんが、このアルバムのリリースで伊波杏樹は飛び出します。そこからどう革命を起こしていくかは、この先の楽しみです。

ーー『NamiotO vol 0.5』シリーズを始めた時は、どんな思いがあったのですか。

伊波:私はずっとただ歌うことが好きで、お芝居が好きになって、お仕事としてミュージカルに出て歌ったり、声優としてキャラクターソングを歌ったりする形での表現方法をやってきましたが、以前は“伊波杏樹としての歌の表現”をあまりやってきませんでした。というのも、役とその作品を愛してもらえれば、私はそれだけで十分だと思っていたんです。でもその過程で、私という人間を好きだと言ってくださる人が徐々に増え、そういう思いを受け止めながら、「じゃあ、こういうこともやってみようかな!」と思って新しいチャレンジを重ねていって、CDリリースもそんな流れで始まったんです。

ーーその3作目となる『Fly Out!!』で、大きな一歩を踏み出すという。

伊波:はい。それだけの自信作に仕上がっています。皆さんが伊波杏樹にくれた自信や希望に対する感謝や愛を、たくさんこのアルバムに詰め込みました。大きく私のことを知らない人の目にも触れるきっかけにもなると思いますし、初めてのワクワクを感じています。何かが動き出して始まっていく感覚を覚えたというか、このアルバムが私のことを知らない人の耳に触れた時に、どういう化学反応が起きるのか今から楽しみです。

ーー舞台や声優などの活動が忙しい中で、今作ではほぼ全曲の作詞を手がけて、1曲作曲もされています。どのように時間を使ったのですか。

伊波:例えば移動中は外の景色を眺めたり、空気を吸い込んだりしてインスピレーションが湧くようにして、何かアイデアやワードが降りてきた時はスマホにメモしておいて、家に帰ってから精査するという感じでした。たまにあるお休みの日は全て作詞作業に費やしていたんですけど、言葉が出ない日は全く出なかったです。かと思えば、せっかく言葉が降りてきたのに、こだわりたくて全部崩してみたりとか。舞台でも、稽古を重ねてから終盤でもらったダメ出しに何かちょっと引っかかって、一度全部崩して芝居を再構築するということを結構やったりするんです。それにちょっと近い、お芝居の役作りみたいなことが作詞作業でもありました。

ーー伊波さんから「こういう曲が欲しい」といった提案もしたのですか。

伊波:はい、しました。世界平和をテーマにしたような曲とか、みんなでワチャワチャできるクラップ曲、ジャズっぽい曲が欲しい……など。アイデア出しや提案は、作曲・編曲をしてくださった多田三洋さんとセッションしながらやっていきました。それを元に多田さんが作ってくれた楽曲を聴いて、「書ける!」となったら作詞をする流れでした。だから、本当は全てを作詞までする予定ではなかったんです。

ーーそうだったんですね。ですが、結果的にほぼ全曲で作詞をすることになりましたが、どうしてなんでしょう?

伊波:曲を聴いた時にインスピレーションが湧いて、世界がどんどん広がっていったというか、引き出しがバンバン開き始めたんです。そこから出てくるものを拒まずメモして曲に当てはめていくような、パズルゲームに近い感覚から作詞が始まって。そこから「もっとこういう発想もできるんじゃないか?」と、どんどん広がっていきました。

ーーメモする時はスマホ、歌詞を書く時はノートにペンだとラジオでも話していましたが、そこはこだわったんでしょうか。

伊波:こだわりというわけではなくて、単にスマホがそんなに得意ではないというだけで。SNSに投稿するのもそうですし、パソコンや電化製品全般がことごとくダメで、現代の若者から置いていかれているレベルのダメさです(笑)。そうなると、何かを精査する時はメモを見ながらノートや紙に書き記すほうがわかりやすくて。今回は相当な枚数を書いたんですけど、もったいなくてとても捨てられなくて、失敗したものも含めて全部取ってあります。

ーーお気に入りのボールペンがあったりとか?

伊波:あります。芯が細いと、書いても自分の中でインパクトが小さくて、1ミリ以上の太めの芯を使ってます。細字って得意じゃないんだなって改めて気づきました(笑)。ペンの種類でも変わりますよね。鉛筆やシャーペンでも違うし、万年筆みたいにインクにつけて書くのはかっこよくて、気持ちもちょっと変わるじゃないですか。また作詞をする機会があったら、いろいろな方法を試してみたいなと思います。

「私は命を賭けてこの仕事に就いている」

ーー今回の制作で最初に作詞をしたのはどの曲ですか。

伊波:4曲目の「I Copy ! You Copy ?」です。

ーーアッパーでノリのいい曲で、ユーモアもある。こういう曲を作って欲しいとお話ししていたんですか。

伊波:もともと多田さんが準備していた楽曲から「こういう曲はどうですか?」と初期の段階で提案してもらい、私がそれに一目惚れしたという感じです。2~3回聴けば口ずさめるんじゃないかというくらいすでに完成されていたから、歌詞もポンポン出てきました。

ーー「I Copy ! You Copy ?」という言葉は?

伊波:パイロットなどが交信で使う言葉なんですけど、「あなたからの応答を待っているよ」といった意味で使いました。好きな人から返事が来なかったり、LINEが既読にならないと、ちょっとシュンとする女の子の可愛さ。そんな気持ちを含めています。

ーー子どものような可愛らしい声で、セリフパートもありますね。

伊波:これは小さなマスコットキャラクターみたいな女の子が、いろんなものに恋をしながら、「あの人にどう近づこうか」とか、「あの人のために何をしようかな」とか、とにかく頑張っている様子を歌っています。女性って恋愛をしている時は、とにかく綺麗になったり可愛くなったりするじゃないですか。そうやって心がキラキラしている時は、それが顔などにも表れて人を惹きつけることもある。そういう部分に着目して、キラキラしてハートがいっぱいの歌詞をしたためて、宇宙に飛んでいってしまうほどの妄想を繰り広げています。

ーー自分が主人公というわけではなく、物語を想像するみたいなイメージですか?

伊波:それは聴いてくださった方がどう思ったかが正解だと思っています。でも伊波杏樹が書いている以上、どこかしら私自身が主人公になり得る歌詞も散りばめられていますね。例えば、「VICTORIA」は明確だし、1年前のクリスマスに発表した「An seule étoile」は、私からファンの皆さんへの手紙や日記のような楽曲になっていて。「GOOD LUCK,のHANDSIGN」もそういう曲ですね。

『An seule étoile』MV Anju Inami

ーー「GOOD LUCK,のHANDSIGN」は明るくポップな曲で、ライブのオープニングのような楽しさがあると思いました。

伊波:2018年にリリースした『NamiotO vol 0.5~cover collection~』で、広瀬香美さんの「愛があれば大丈夫」をカバーさせてもらったんですけど、今や私のライブでは必ず歌う曲の1つです。その「愛があれば大丈夫」を軸に、私がこういったテーマ性の曲を作るとしたら、どういうものだろうと考えてでき上がったのが「GOOD LUCKのHANDSIGN」でした。日常をテーマに、晴天の中で歌っているような楽曲も1つ欲しいと思っていたので、とても好きな形で完成させられました。

ーー曲調も含めて、すごくハッピーな楽曲ですね。

伊波:日常の小さな喜びを感じられることが、今は特に大事だと感じているんです。例えば「ありがとう」とか「おはよう」などの言葉の交し合い。私たちも仕事で現場に行くと、フェイスシールドをしたりアクリルパネルが間にあったり、ちょっと声が届きづらくて、「ありがとうが半減してるような……」と思う時もあって。そういう中で、日常に溢れている幸せをしっかりキャッチしていきたい。そういうことに喜びを感じられる、お散歩ソングにできたらいいなと思って作りました。

ーー「GOOD LUCK,のHANDSIGN」は、実際にそういう指のサインがあるんですか?

伊波:人差し指と中指をねじって重ねるサインがそれですね。ライブでの光景が今から楽しみです。

ーーまた「I bet my life」の歌にはセクシーさもありますね。

伊波:もう25歳ということもあり(笑)、ブレスを多めにしてみたり、サビで力強くロングトーンを伸ばすことで、しっかり自分の足で立っている強い女性像が見えたらいいなと思いました。さらに履いているのがヒールの高い靴だったらいいなと。

ーー峰不二子のような?

伊波:イメージとしては近いですね。タイトルは「私の人生を賭ける」という意味をつけてもらって、私は命を賭けてこの仕事に就いていて、それは今でも変わらない。役者として誰かの人生を生きるということは、誰かの命をいただくということだし、限りある少ないチャンスを得るために、誰かの命を奮起している。そういう思いで仕事をしているからこそ、一番ハマりのいいタイトルだなと思います。

ーーそういう生きる覚悟を、エンタメ性溢れるジャズサウンドに乗せて歌っていたり、歌詞には〈トカレフ〉が出てきたりします。

伊波:ロシアンルーレットがモチーフです。選択肢を間違えると、本当にもう戻って来られなくなる。そういうことをスパイスにして、それだけの責任を負ってやっているんだということを示していけたらと。渡邊亜希子さんとの共作で、一筋縄ではいかない女性像がありつつ色香が漂っていて、なおかつ言葉にパンチ力がある曲になったんじゃないかと思いますね。

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