『D.LEAGUE』特別対談 第6回

TWIGGZ "JUN"×神田勘太朗『D.LEAGUE』対談 日本から世界を掴む、広がっていくダンサーの在り方

「KRUMPでビジネスをしていることへの責務」(JUN)

ーー『D.LEAGUE』を通じてシーンが活発になっているという手応えは?

JUN:KRUMPに関しては感じますね。世界中が「あれ、TWIGGZ "JUN"のやっていることって最先端じゃない?」とみんなが気づいているはずです。先日もロシアのチームが僕らのダンスをサンプリングしていて、「見てるの?」と驚きました(笑)。個が強いダンスなので、まとめて作品にする人は少なかったのですが、コロナ禍もあり、今みんながやり始めているんですね。今後リーグが大きくなっていけば、外国人チーム枠も増えるでしょうし、「日本から世界を掴む」という流れになっていくのではないでしょうか。

神田:ダンサーですから、全員がそう思っていると思いますよ。ロシアのクランパーも「俺が最先端」と考えているはず。そういう無駄な自信がないとダンサーなんてやってられませんよ(笑)。でも外国の方が『D.LEAGUE』を見るようになるのは時間の問題です。多言語対応も近いうちに導入するので、「日本の『D.LEAGUE』に行きたい」という外国人ダンサーが現れるのも遠い未来ではないはずです。そのために僕らもビザの発行など、事務的なことで連携・サポートできればと思っています。そうなったらコロナ禍が落ち着いた後にリーグはますます盛り上がるでしょうし、それに負けたくない日本人魂も湧いてきたら、それはそれで面白いですよね。

 あとは海外で同じようなリーグが立ち上がるとも予想しています。バスケだったら「NBAに行きたい」となるように、「ダンスなら日本の『D.LEAGUE』に行きたい」となるようなブランドを育てていきたいですね。個人的には「モテる」「スターになれる」「ビジネスになる」という欲望が集まる場所でもいいと思うんですよ。

ーー神田さんは以前から「日本のダンスシーンのレベルは世界的に見ても高い」というお話をされていますが、その見解は今も変わりませんか。

神田:変わりませんね。この業界に限らず、日本人は海外の方を上に見る人が多い気がしますけど、僕らは「彼らもすごいけど、俺らもすごくない?」と考えてきました。世界中で日本人コレオグラファーが活躍しているのは、まさにそれだと思います。言葉は話せなくてもダンサーは踊れれば関係ないですからね。JUNも最初に単身でアメリカ行った時、そんな感じでしたし。

JUN:まったく英語が話せませんでしたから(笑)。

神田:ダンサーは国籍でコンプレックスを持たないので、例えば日中間が揉めていても中国人のダンサーと仲良しだったりする。ダンサーに対して「日本人だから」と考えないだけに、日本人による『D.LEAGUE』が世界を突破できると信じています。実際に毎試合で高いレベルの作品が集まりますし、僕らはもっと広げていかなければいけません。

ーーそれからJUNさんの作品からは力強さやユニークさに留まらず、スピリチュアルさを感じるところも魅力かと思います。そこについても少しお聞きしたいのですが。

JUN:それは“神に捧げる踊り”である、KRUMPの根本的なところです。ただ、僕らはキリスト教を信じているわけではないので悩んだこともありました。「キリスト教を信奉していないならKRUMPを踊るな。真似事だ」という時代もありましたが、創始者のひとりであるタイト・アイズが「ルーツを理解した上でダンスとして広めていくのは悪いことではないし、自分が得たものをみんなとシェアできることは作った側からしても幸せなことだ」と言ってくれたんですよ。

 ただ、「神様に感謝してルーツを忘れない」というスピリチュアルな根本は大切にしたいと思っています。LAでKRUMPを習っていた時、タイト・アイズたちに「本当のKRUMPの根源を見たい」とお願いして、金曜の夜にサウスセントラルにある教会に連れていってもらったことがあるんですよ。小さくボロボロな教会だったのですが、みんなと手を繋いで賛美歌を歌ってから、牧師さんが頭に手を置いて祈ると女性が泣きながらバタバタ倒れていくんですね。それを見た時に文化の大きな違いを感じて、完全に理解するのは難しいなと正直思いました。そして、その礼拝が終わった後に彼らはセッションしに行くんです。

ーーなるほど。

JUN:一見すると非現実的ですが、それが彼らにとっては当たり前の生活なんですよ。それを見て、僕は「このKRUMPを使って自分は日本でビジネスをしている」ということに責務を感じました。これは根源のマインドを常に理解し尊重しながら踊らければならないぞ、と。KRUMPはそれありきのダンス。なので音楽どうこうの話ではなく、それに先立つ内なる対話や「それをベースに生きている」ということを大事にして作品を作ってきました。今はそれをメンバーにも一つひとつ理解してもらいながら進んでいるところなんです。

神田:「スポーツマンシップ」という言葉があるように、「ダンサーシップ」なる概念も大切になってくるかもしれません。今までダンスは遊びの延長で、よくないイメージもあったと思うのですが、キッズダンスの浸透や義務教育への採用、五輪競技化、『D.LEAGUE』のプロ化によって印象が変わりつつあります。その流れで新しい形の「カッコよさ」が、『D.LEAGUE』をきっかけに生まれたら面白いですね。

 朝起きて、練習に行って、ショウを作って、お客さんに喜んでもらう。その評価によって年棒が上がったり、それで家族を守るというライフスタイルに憧れが生まれたりしていて、アートや文化のカッコよさとは違う価値観があってもよいと思うんです。同時にDリーガーやディレクターには一般の人にどう伝えていくのか、その対価として生活できているということも意識してほしいですね。「カッコいい」という感覚は年を経て、守るものが増えれば変わっていきますし、僕やJUNのことをカッコいいと思わない人もいるかもしれませんが、彼らとは違うカッコよさを見つけてしまったんですよ。

JUN:ダンスの視野や選択肢が広がっていることは間違いない。だから「あれはダンスじゃない」という人がいたとしても、マイナスなことはないと思いますね。畑が広がっていくことが面白いですし、広がれば広がるほど「どこへ行ってもいいよね」という未来も生まれますから。

神田:いつかJUNのポスターを天井に貼るような子が出てくるかもしれませんよ。

JUN:「RAISERZのユニフォームをお年玉で買いたい!」とか(笑)。夢がありますよね。そうなっていくといいな、と思うばかりです。

ーーでは最後にJUNさんから今季の意気込みをぜひ聞かせてください。

JUN:ただただ優勝を目指します。でもそれは結果としての優勝だけでなく、いろいろな「勝ち」を得たい。自分としては、RAISERZって若いファンが少ない気がするんです。30代以上やお母さん世代に刺さっているのは嬉しいので、そこをさらに広げつつ、若い子の心も獲得していけるような2ndシーズンにしたいですね。あとはメンバーそれぞれのKRUMPのスタイルを魅せていく戦い方ができればいいなとも考えていますよ。1stシーズンの結果がよかったのと、RIEがavex ROYALBRATSから外れたこともあり、僕らが優勝候補と言われる気もしますが、そんなつもりもありません(笑)。常に危機意識を持って準備はしていきます。

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