古川貴浩×千葉”naotyu-”直樹が語り合う、音楽制作に大切な視点 未来のクリエイターへのメッセージも

古川貴浩×千葉”naotyu-”直樹対談

俯瞰でとらえることの大切さ

ーーでは、ボーカルのディレクションをする上で気をつけていることは?

古川:まず、トークバックをめちゃくちゃ早くします。ボーカリストがブースに一人で入っているとき、コントロールルームにいる我々のジャッジが遅くて沈黙の時間が流れると不安にさせてしまうんですよね。歌い終わったときは、考えがまとまらなくてもすぐにトークバックでコミュニケーションを取るようにしています。しかも何かいうときにはなるべく大きな声で(笑)。ボソボソ喋られると不安になるんですよね。「すぐに返事をする」「声を大きく」はボーカルディレクションの際の鉄則です。

千葉:ボーカリストによって、「ここが半音ずれているから気をつけて」みたいにテクニカルなことを細かくサジェスチョンした方がいいのか、例えば「もっと元気に」とか「もっとしっとりと」みたいな抽象的な表現でリクエストした方がいいのかが違ってきませんか? 特に初めてご一緒するボーカリストの場合は、早くそこを見極めるのが重要というか。

古川:確かにそうだね。歌のスキルが高い人にはテクニカルなサジェスチョンをすることもありますが、基本的にはまずプレイバックを聴いてもらって、良かったところを積極的に言うようにしていますね。悪かったところばかり並べると、誰でも萎縮してしまうじゃないですか。特にボーカリストはその時の気分が歌に如実にあらわれるので、メンタル面でのケアの方がテクニカル云々よりも大事だと思っています。

ーー今後はどのような活動をしていきたいですか?

古川:誰しもそうだと思うけど、自分の持ち味を出せる制作現場にずっと身を置き続けたいですよね。新しい取り組みとしては、若くて才能のあるアーティストとイチから一緒に作品を作り上げたい。実は今、そういうプロジェクトもいくつか進行しているんですよ。びっくりするくらい才能に溢れていながら、それをどうアウトプットしたらいいのか分からない子に、僕のこれまでの経験を踏まえたサジェスチョンをすると、急にメキメキと上達したりして。そういう様子を見るのは楽しいですし、僕自身が学ぶことも多いです。

不揃い/ayaka. MusicVideo

 あと、昨年リリースされた日向坂46のゲーム『日向坂46とふしぎな図書室』の音楽を担当させてもらっているのですが、僕はおそらくいろんな人と曲数を分け合うより、一人でほぼ全体を請け負った方が自分のカラーを出しやすいので、そういう案件をもっと増やしていきたいですね。責任のあるプロジェクトにやりがいを感じます。

千葉:それでいうと、僕は4年くらいアニプレックスさんのゲームアプリ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』の劇伴をやらせていただいているのですが、そうやって一つの作品を長いこと関わらせてもらうことによって、さらに深いところまで世界観を作り込むことができるのは楽しいです。劇伴の仕事も、それがサントラとして形に残るのはとても嬉しいので、そういう機会がもっと増えたらいいなと思っていますね。

 あとは、若くて有能なアーティストさんや作家さんたちと、何か一緒に作れたらいいなと漠然と考える年齢になってきました(笑)。20代の頃は全くそんなこと考えていなかったけど、今は共に何かを作れるパートナーが欲しいですね。

古川:naotyu-は他にももっと野望のある男じゃない?本当はあるんじゃないの?(笑)。

千葉:あははは、野望ですか?(笑) そういえばデヴィッド・フォスターさんが、『インディ500』というアメリカで開催される大きなカーレースが100周年を迎えたとき(2011年)、開会式でアメリカ国歌をポップスにアレンジしていたんですよ。僕はレースが大好きなので、いつか彼のように国内の大きなカーレースで「君が代」をポップにアレンジできるようなことがあればよいですね。『グランツーリスモ』というゲームの音楽に何年か前から少し関わらせてもらっていて、それは海外の方でも聴かれているみたいですしね。

 今はコロナでなかなか海外展開が難しくなっているけど、コロナ前はよく海外のコンポーザーと「コライト・キャンプ」などにも参加したり、アニメのフェスで曲を作らせてもらってシンガポールの会場でトークイベントに登壇したりしていたんですよ。そういうことも、状況が落ち着いたらまたやりたいですね。

ーーでは最後に、これから作家やサウンドプロデューサーを目指す読者へアドバイスをお願いします。

古川:そんなに偉そうなことは言えないのですが(笑)、とにかく作家になりたかったら曲を書き続けてください。5曲くらい作ったところで何も変わらないし、まずは100曲書いてからがスタートだと思います。僕自身、最初は作曲の才能とかないと思っていたし。なかなか採用に至らず苦労しました。でもこうやっていろんなところに提供させていただけるようになったのは、とにかく曲を書き続けたからだと。

 アレンジやサウンドプロデュースに興味があるのなら、自分でもバンドをやってみるかいろんなプレイヤーと演奏してみてほしい。楽器が鳴っているところを直接見て聴かないと、打ち込みで再現するのは不可能だと思うんですよ。生楽器の演奏を見ること、実際に自分でも演奏してみることは、必ずアレンジやサウンドプロデュースの糧になりますしね。

千葉:生楽器は触る、見ることが何より重要ですよね。もちろん楽典などで正しい知識は身につきますが、例えば楽器の構造的に、実はこの音からこの音への移動は難しいというのは本だけでは得られない経験値だと僕も思います。実際、生ドラムの打ち込みはレコーディングを経験する中で得意になったんですよ。フィルのバリエーションとか、レコーディングをした回数に比例して増えていきましたしね。あとは、俯瞰でとらえる癖をつけること。作っている人の一つ二つ先の人、それはクライアントだったりアーティストだったり、もちろんリスナーだったり、そういう人たちがどう思うのかは常に忘れないようにすることは、すべての仕事において大事なことですよね。これは昔、バイト先の店長に言われたことで今でも大事にしています。

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古川貴浩 SMPオフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/takahirofurukawa/

千葉”naotyu-”直樹 SMPオフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/naokinaotyuchiba/

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