反田恭平、『第18回ショパン国際ピアノコンクール』快挙の舞台裏 『ピアノの森』彷彿とするドラマにファンも歓喜

 今年10月、ワルシャワで開催された『第18回ショパン国際ピアノコンクール』で、日本の反田恭平さんが第2位に入賞した。日本人として51年ぶりの最高位タイという快挙は、メディアでも大きく取り上げられた。

 反田さんといえば、アニメ『ピアノの森』で阿字野壮介のピアノを担当したピアニストだ。そもそも、反田さんが『ショパンコンクール』に憧れるようになったことには、『ピアノの森』の存在も影響しているという。

『ピアノの森』

 一色まこと原作のアニメ『ピアノの森』は、ピアノに魅了され、音楽に救われながら歩んでゆく若者たちの生き方を描いた、涙あり笑いありのストーリー。主人公は、森に捨てられたピアノを弾いて育った、一ノ瀬 海(以下、カイ)。小学校で、世界的ピアニストを父に持つ転校生の雨宮修平、かつて天才ピアニストとして活躍するも事故により引退し、音楽教師をしていた阿字野壮介と出会い、才能を開花させる。

 そして成長したカイは、世界最高峰の登竜門、『ショパン国際ピアノコンクール』に挑む。型破りなところもありながら、聴く人を一瞬で魅了する天性の才能に恵まれたカイ。天才に直面してもがく“秀才”タイプの雨宮。そのほか、コンクールを通じて知り合う世界各地のピアニストたちにも、それぞれに物語がある。カイの挑戦、雨宮をはじめとする友人でありライバルである仲間たちとの関係、そしてそれぞれが自分だけの音楽を見つけてゆく様が、丹念に描かれる。

 第18回ショパン国際ピアノコンクールは、パンデミックの影響による1年延期の末の開催ということもあり、参加者たちの多くが準備万端、ハイレベルな競演が繰り広げられた。コンクールのバックステージで見たコンテスタントたちの様子には、『ピアノの森』そのものといえる場面が多かった。そこで本稿では、筆者が現地でショパンコンクールを取材した印象から、反田さんの活躍を中心にコンクールの様子を紹介したい。

 実際、『ピアノの森』は、一色まことさんが、2000年の第14回から2010年の第16回まで3回取材を行い、コンテスタントや関係者をじっくり観察したうえで描いたものなのだから、作品と現実のコンクールがリンクするのは当然ともいえる。会場の熱気、すばらしいピアニストが出現した瞬間の空気の描写など、現地を訪れたことがある身としては、本当に見事だと感服してしまう。

 今回のコンクールでは、原作さながらのドラマティックな出来事がいくつも起きていた。

 その一つが、反田さんと第4位に入賞した小林愛実さんとの関係性だ。二人は小学生の頃から「桐朋学園付属子供のための音楽教室 仙川教室」でともに学んできた。カイと雨宮同様、幼なじみの両者は、コンクール中も互いに演奏を聴き、アドバイスをしあいながら過ごしていたという。先に演奏順のくる反田さんが、小林さんの演奏のときに荷物を持って付き添っていた姿も印象的だった。反田さんが「自分の演奏より緊張する…」と話していたときの表情など、ほとんど身内だ。

Finals of the 18th Chopin Competition in Warsaw Philharmonic Concert Hall .
On pic: Kyohei Sorita Photo by: Darek Golik Warsaw, Poland, 18th of October 2021

 しかし、二人の音楽性は大きく異なる上に、次のステージに進める人数も限られている。支え合う部分が大きかったとはいえ、ライバルとして意識する瞬間もあったはずだ。そんな複雑な感情を抱えながらも切磋琢磨し、ファイナルまで進出して、ともに入賞を果たした。

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