日本産アンビエント再評価の流れ サウンドクリエイター 日向敏文の功績

 日本音楽は海外で通用するのか? 一昔前まではそんな疑問を誰しも持っていたはずなのに、今や疑問に思うこと自体がナンセンスになっている。竹内まりや「プラスティック・ラブ」や松原みき「真夜中のドア ~ stay with me」に代表されるようなシティポップの盛り上がりは言うまでもないし、その周辺のアーティストでもYouTubeや音楽ストリーミングサービスにおいて、時代やトレンドに関係なく膨大な再生数を誇っている楽曲も数多い。シティポップ以外にも、ロックバンド、声優を含めたアニソン、アンダーグラウンドなインディ系アーティストまで含めると、日本よりも海外で高く評価されている音楽は山ほどある。

 そんな日本の音楽の中でも、アンビエントやニューエイジといわれているインスト系のサウンドもまた、評価が高まっているジャンルのひとつだ。王道のシンセや室内楽的なインストはもちろんのこと、細野晴臣関連のテクノポップ系から近藤等則のようなジャズ寄りのアーティストまで幅広いが、いずれも日本から生まれたどこかエキゾチックな世界というイメージがあるのだろう。2019年にはシティポップや細野晴臣などの楽曲をリリースしている米国のレーベル<Light In The Attic Records>から、『KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90』というコンピレーションがリリースされ、しかもグラミー賞にノミネートされたことでも話題になった。他にもアンビエント系の日本人アーティストは、海外において発掘が進んでおり、コンピレーションだけでなくオリジナルアルバムの再発も多い。これだけでもいかに日本の音楽が注目されているかがわかるのではないだろうか。

『ひとつぶの海(REALITY IN LOVE)』

 こういった日本産アンビエントの再評価の中心にいる人物のひとりが、日向敏文である。彼が1986年にリリースした3作目のアルバム『ひとつぶの海(REALITY IN LOVE)』に収録されている「Reflections」が、世界中でストリーミング再生されているという。現時点でSpotifyの再生回数を確認したら、なんと2280万回を超えていた。淡々と弾く日向敏文のピアノに中西俊博のバイオリンがフィーチャーされたこの曲は、非常にメロディアスではあるが、いわゆるヒット曲というイメージとは少し離れている。どちらかというとクラシカルなテイストが強いシンプルな楽曲であり、あくまでもアルバムの序章とでもいうような愛すべき小品だ。よって、大きく取り沙汰されるのが非常に不思議に感じられるだろう。

 実はこの「Reflections」は、米国のヒップホップアーティスト、TREFUEGOが2019年に発表した「90mh」という楽曲でサンプリングされており、それで注目されるようになったといわれている。TREFUEGOはあくまでもインディーラッパーなので、メジャーレーベル所属のアーティストに比べると、一般的に知られているとはいい難い。それでもこの「90mh」はSpotifyのカウントを確認する限りでは8000万回近く再生されている人気曲だ。海外のサイトでは「90mh」のサンプリングソースに関する書き込みで日向敏文の名前を出したりしていることもあり、おそらく「Reflections」はTREFUEGOを聴いたヒップホップファン経由で幅広く聴かれることになったのだろう。「Reflections」はストリーミングでのヒットはもちろん、そこから派生してTikTokなどでも頻繁に使用されており、静かなるブームが巻き起こっているのである。

Toshifumi Hinata – Reflections (Official Music Video)

関連記事