Coldplay、肯定を歌う壮大なスペースオペラ 『Music Of The Spheres』が現代に投げかける普遍的なメッセージ

Coldplay、肯定を歌う壮大なスペースオペラ

約10分の「Coloratura」というバンド屈指のクライマックス

 アルバム後半の幕開けとなる「People of The Pride」は、実はファンの間では2009年から知られていた「The Man Who Swears」という未発表曲をベースに、10年以上の時を経て完成した楽曲だ。そういった経緯もあってか、本楽曲は近年のColdplayの作品において最もロックに振り切った、MuseやRAMMSTEINを彷彿とさせる大胆なギターリフが牽引する雄大なサウンドに仕上がっており、メロディラインも『美しき生命』期を彷彿とさせるドラマティックなものになっている。(恐らく宇宙を旅する中で)“自らを神である”と豪語する傲慢な存在と対峙する楽曲の展開は不穏ではあるものの、あくまでColdplayは〈We'll all be free to fall in love/With who we want(我々は自由に、我々が望む人を愛していい)〉と宣言し、やはりその在り方が変わることがない。

Coldplay - People Of The Pride (Official Lyric Video)

 続く「Biutyful」は、前作収録の「Cry Cry Cry」を彷彿とさせる、クリスとピッチ加工されたボーカルによるデュエット曲だ。以前、このボーカルについてクリスはAngelinaという異星人であり、今後の楽曲にも登場する予定があると語っていたが(※4)、それがこの曲ということなのだろう。ドゥーワップ調の「Cry Cry Cry」とは大きく変わり、スウィートなR&Bに仕上がった本楽曲だが、〈I hope that you get everything you want in this beautiful life(あなたがこの美しい人生で、欲しいものをすべて手に入れられますように)と、星々を超えた2人が相手を強く肯定するその構成には、あらゆる壁を超えて人々がお互いを愛することを願うColdplayのメッセージが投影されているようだ。

 楽曲の世界観と共にサウンドも大きく変えながら、本作はいよいよクライマックスへと向かっていく。歓声が響くインタールードの「❍」を経て、恐らく本作で最も注目されている楽曲であろう、BTSを迎えた「My Universe」が訪れる。The Chainsmokersと組んだ「Something Just Like This」のような、落ち着いたトーンを保ちながら徐々に感情を高めていくバースと、喜びを爆発させるようなエモーショナルでキャッチーなコーラスのコントラストが印象的な(ポップモード時の)Coldplayの王道とも言える同楽曲。だが、〈you are my universe(あなたは私の宇宙)〉と高らかに宣言する歌詞、そして作品全体のメッセージを伝える上で、現代のメインストリームにおいて最もポップな存在となったBTSが眩しいほどの輝きを与えている。今、相手を肯定する上で、彼ら以上の適任はいないだろう。このコラボレーション自体が、壁を超えて人々が一つになることを表現しているのだ。

Coldplay X BTS - My Universe (Official Video)

 祝祭の余韻を残しながら、 「∞」では長きに渡ってタッグを組んできたジョン・ホプキンスによる心地良く、美しいエレクトロニックサウンドがゆっくりと広がっていき、もはや宇宙と一体となるような感覚へと導かれていく。そして、アルバムは最終地点となる「Coloratura」を迎える。(インタールードを除く)本作に収録された楽曲が概ね万人に向けられた仕上がりになっているのに対して、本楽曲の約10分という演奏時間は明らかに異質だ。だが、広大な宇宙の輪郭を崩すことなく丁寧に描き続けながら、一つのシンプルなピアノバラードが徐々に表情を変え、銀河を貫くほどの力強いギターソロを経ながら、壮大な合唱を引き起こすであろうアンセムへと変貌していく構成はあまりにも見事で、まさに宇宙をそのまま音像化したかのような圧倒的な体験を創り上げている。この音楽体験と、狂気に満ちた世界を生きながら、宇宙の中でゆっくりと燃え尽きていくことを感じ、それでも「あなたが放つ愛こそが全て」という楽曲に込められたメッセージが一体となり、本作はあまりにも見事なクライマックスを迎えるのである。これまでの彼らの傑作の中でも、ここまで美しい幕切れはなかったのではないだろうかと思えるほど、「Coloratura」は素晴らしい楽曲だ。

Coldplay - Coloratura (Official Lyric Video)

 架空のスペースオペラを創り上げ、徹底的に「あなた」を全肯定する本作は、(これまでのポップに振り切った作品群と同様に)Coldplayのファン全員を満足させるものではないだろう。また、楽観主義で居続けること自体が難しい現代において、それでもなおポジティブなメッセージを大衆に発信し続けるということ自体が、もはや大きなリスクを伴っている。だが、それでもなおColdplayは、あくまで自分たちの役割を果たすことを選択し、その結果として『Music Of The Spheres』が生まれた。少なくとも、これを作ることが出来るアーティストはColdplayしか存在しないのである。そして、そこに込められたメッセージは、ついに実現するワールドツアーでさらに巨大なスケールとなって我々の前に現れることだろう。

※1:https://www.alienradio.fm/
※2:https://www.youtube.com/watch?v=04ocLP_X1cQ
※3:https://music.apple.com/jp/post/1587289810
※4:BBC RADIO 2『Jo Whiley : Coldplay in session』

Coldplay『Music Of The Spheres』

■アルバム情報
Coldplay『Music Of The Spheres』
2021年10月15日(金)発売 ¥2,860(税込)
ダウンロード・ストリーミングはこちら
<トラックリスト>
1. ⦵
2. ハイヤー・パワー
3. ヒューマンカインド
4. *✧
5. レット・サムバディ・ゴー
6. ♡
7. ピープル・オブ・ザ・プライド
8. ビューティフル
9. 
10. マイ・ユニバース
11. ❍
12. コロラチューラ
13. ハイヤー・パワー(アコースティック)* Bonus Track
14. ハイヤー・パワー(ティエスト・リミックス)* Bonus Track

Coldplay WMJアーティストページ:https://wmg.jp/coldplay/

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