クリープハイプ×iriに心と身体を揺さぶられた夜 『ストリップ歌小屋 2021』最終公演を観て

クリープハイプ×iri 対バンを観て

 そしてクリープハイプのライブがスタート。1、2曲目は「キケンナアソビ」、「月の逆襲」と今年9月に開催された『クリープハイプの日 2021(仮)』を踏襲した走り出し。そこからは、「月の逆襲」と同じく長谷川カオナシ(Ba)がメインボーカルをとる「ベランダの外」、インディーズ時代からの曲「バブル、弾ける」と展開していった。

 クリープハイプとiriがツーマンをするのはこの日が初めてだった。音楽性が近しいとは言い難い2組。しかし“なぜiriを呼んだのか”といった話はこのあとのMCでも明かされず、各々が各々のライブを全うする、純然たる対バンだった。そんななか、クリープハイプのライブからは4ピースサウンドの厚み、充実感を改めて感じる瞬間が多かったように思う。例えば、ドラムのリズムが毎セクション変わるという小泉拓(Dr)の創意工夫が感じられる曲で、それに合わせて照明の色も変わるというポップな演出があったのは「バイト バイト バイト」。ギターを鳴らしていた尾崎が、カッティングとともに歌い始めたのを機に場面が切り替わり(この瞬間、尾崎が纏う空気ごと変わった印象がありゾッとした)、バンドイン後に全員で疾走していく様が痛快だったのは「リグレット」。「リグレット」や「寝癖」において記名性の高いフレーズを奏でる小川幸慈(Gt)は、その軽やかなフレージングにノッて踊るようにステップを踏んでいる。

小泉拓(Dr)

 ギター、ギター、ベース、ドラムというバンド編成は、言ってしまえばありふれたものだ。しかし、まるで今初めて出会ったかのように揺さぶられる瞬間、どうしてか胸を熱くさせられる瞬間を求めて私たちはライブハウスに通うのだろう。尾崎は、この日のiri然り、自分たちが呼んだアーティストのライブを袖で観ていると毎回羨ましいと思う、なぜならお客さんに初めて出会えるから、と胸中を明かす。それを踏まえて「もう一度初めてがあったらまたライブに来てもらえるような、そのくらいインパクトを残せるライブを、という気持ちで今日やってます」とも語られたが、真剣に聞き入っている観客に対し、尾崎が「……拍手じゃないかなー」と促し、観客が拍手するところまでがワンセット。バンドのライブに懸ける想い、そしてクリープハイプとそのファンの関係性が読み取れた場面だった。

 「社会の窓」、「身も蓋もない水槽」、「テレビサイズ(TV Size 2’30)」といった攻撃的なアッパーチューンに連なるのは、今年8月リリースの「しょうもな」。そして13曲目には、12月8日リリースのアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』に収録予定の新曲「ナイトオンザプラネット」が演奏された。「ナイトオンザプラネット」は長谷川がキーボードを弾くベースレス編成の曲で、ヒップホップ系の曲調を4人だけで演奏することは彼らにとって新機軸だが、2016年にチプルソをフィーチャリングに招いた「TRUE LOVE」を発表していること、2020年に「愛す(チプルソ Remix)」を発表していること、そしてかねてから歌詞にライミングが見受けられることを踏まえれば、ラップミュージックとの接近は不自然ではない。実際、「ナイトオンザプラネット」は、新鮮な感触ながらもクリープハイプの曲として違和感なく受け取れるものだった。

小川幸慈(Gt)

 それら新曲群の披露を経て、ラストに演奏されたのは初期曲の「ねがいり」。直前のMCでは、尾崎はクリープハイプのことを“隙だらけで弱点ばかり”と称し、改めてファンに「こんなバンドを好きでいてくれてありがとうございます」と伝えていたが、「ねがいり」の最後のギターの余韻が消えるのをみんなで待つ瞬間は美しく、今この瞬間にバンドが鳴らした音楽を共に愛おしむかのようだった。

 おそらく、尾崎が去り際に言った「ここからの帰り道が最後になる人も多いと思います。お互い大事に帰りましょう」とは、2022年1月1日に閉館となるZepp Tokyoに寄せた言葉だろう(クリープハイプはこの会場で幾度となくライブをしてきた)。バンドがいて、ライブハウスで音楽が鳴らされる。それだけだが、これ以上にない瞬間の特別さを静かなる興奮、一抹の切なさとともに噛み締めた。

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