ONE OK ROCK、未知への挑戦から浮かび上がるバンドの本質 無観客スタジアムライブに密着したドキュメンタリーを徹底考察
また、本作のインタビューパートでは、このようなオンラインライブに向けて取り組む様子に加えて、ONE OK ROCKのメンバーがバンドに加入する以前にどのような日々を過ごしていたのかが語られる。
幼少期から芸能活動を続けながらも、徐々に閉塞感を感じるようになり、やがてロックに夢中になっていくToru(Gt)や、その様子を間近で見て刺激を受けたRyota(Ba)の姿など、ファンの間では有名なエピソードかもしれないが、本人の口から、当時の写真を交えて改めて語られるというのは貴重で、かつ興味深く感じられる。Takaの場面では学生時代、当時所属していたアイドル事務所を辞めた後の過酷な日々が語られるのだが、この時の出来事を振り返る中で、なんと思いついたかのように実家を訪問し、突然の出来事に驚く父親・森進一と共に当時の出来事を振り返るという貴重な場面を観ることができる。
これらのインタビューから浮き彫りになるのは、ONE OK ROCKというバンドそのものが、「行き詰まった現状を打ち破り、前に進むために生まれた」ということである。それは巨大な存在となった今も変わっていない。今回のオンラインライブは、世界的なパンデミックにより制限され、閉塞感に満ちた生活を打ち破り、どうにか前へと進むための重要なターニングポイントであり、だからこそスタジアム公演という壮大なスケールのライブとなり、明確なビジョンの下に突き進むことができているのだろう。
そして、ドキュメンタリー終盤、いよいよコンサートの本番が目前へと迫り、映像内の緊張感が一気に増していく。
照明やカメラなどのセッティングが完了し、演出に用いられる動画素材などが一通り届いて、ライブの全体像が分かるようになった前日のリハーサルの場で、Takaはそれまで頭の中で描いていたライブの様子と、実際の仕上がりを比較しながら最後の仕上げを進めていく。もう後戻りのできない僅かな時間の中で、様々な要素を容赦なくカットし、時にはリハーサルを止めて自らメンバーやスタッフに指示をする。それまでにもしっかりと感じることのできたTakaのビジョンはもはや極限まで研ぎ澄まされており、一切の妥協と迷いがない。その姿に開演時間ギリギリまでメンバーやスタッフも全力で向き合いながら、いよいよ本番の時を迎える。
「あるべき姿」が実際に形となったとしても、それはあくまでパフォーマンスを披露するための舞台が整っただけにすぎない。だが、彼らにとって最も明確なものは、観客に届けるメッセージだ。彼らのステージからは観客の姿は一切見えないにも関わらず、Takaは常に「歌ってくれ」とカメラの向こう側を絶対的に信じて声を掛け続ける。その眼差しはあまりにも鋭く、尋常ではないエネルギーに満ち溢れており、たとえ映像であろうと観ている側を強く突き動かす。ライブ終盤、「いろんなものを失ったよね。だけどその分、俺らも皆さんも、これから新しいものを手に入れて行けると思います。どうか諦めずに」と語り、そこからのラスト2曲「We are」、そして「Wasted Nights」でのパフォーマンスはあまりにも壮絶で、この瞬間のためにこれまでの全てがあったのだとさえ感じさせられる。
ライブは大団円を迎え、安堵の表情に満ちたメンバーの姿を映しながら本作は幕を閉じる。エンドロールでは、「もう二度とやりたくない」と冗談交じりに語るメンバーの姿に思わず笑ってしまうが、それも納得してしまうほどに、彼らの持つ強大な野心と明確なビジョン、そしてそれを形にするための徹底的なこだわりと労力に圧倒される。だが、それこそがONE OK ROCKというバンドをここまで巨大な存在へと導いたのだろう。本作は未知の領域へと挑むからこそ、よりはっきりと浮き彫りになったバンドの本質を見事に捉えている。
■番組情報
Netflixドキュメンタリー『Flip a Coin -ONE OK ROCK Documentary-』
出演:ONE OK ROCK(Taka, Toru, Ryota, Tomoya)
ディレクター:雨包直人
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一
プロデューサー:後藤吉隆
配信:2021年10月21日、Netflixにて全世界同時配信
作品ページ:https://www.netflix.com/flipacoinoneokrockdocumentary