King Gnu、気品と熱狂が入り乱れる圧倒的なオリジナリティ 「BOY」は新たな王道を切り拓く1曲に

 始まりは井口のメロディ、ぴんと弾かれるクラシックギター、軽やかな弓さばきが目に浮かぶ複数のバイオリンだ。開始20秒でエレキギター、ベースとドラムも入ってくるが、バンドは後ろのほうでリズムキープの役割を担うのみで、メインはもっぱらバイオリンチーム。モーツァルトの弦楽四重奏ってこんな感じだったよな、というくらいの華やかさ(バッハやベートーヴェンのどこか暗い荘厳さではない。あくまでモーツァルト的な気品と明るさ)で歌と共に舞い踊っているのだ。このポップさ、可愛らしさは、もちろんアニメのファンタジックな世界に寄せたもの。かっこいい、ではなく、可愛い、の形容詞が浮かぶのもKing Gnuでは初めてのことかもしれない。

 バンドの音があまり聴こえず、ストリングスと歌だけで展開していくのに、しかしこれがKing Gnuだと瞬時に気づく人はとても多いと思う。それくらい常田のメロディは記名性が強いし、あとは井口のボーカルが想像以上に耳に浸透していることも大きい。繊細なファルセット、色っぽいブレス、こわれもののガラスを思わせる地の声など、彼の歌ひとつでKing GnuはKing Gnuたりえるのだと気付かされる。何かと常田のギラついた才能が語られがちなバンドだが、歌声ひとつで周囲を納得させるフロントマンの存在感を、いつの間にか井口は完全に身につけているのだ。

King Gnu - BOY

 これだけなら過去最高にポップな新境地と言えるが、最高の見せ場は2分20秒を超えたあたりの間奏部分。ワウペダルを踏み込んだエレキギターがいきなり表舞台に飛び上がり、これでもかとディストーションを放出する。続く雷のごとき打ち込みのビート。その後ろで轟く勢喜遊のドラムのなんとも苛烈なこと! 時間にすればほんの30秒程度だが、ファンタジックな舞踏会に突然暴徒が現れたようなインパクトだ。ただ、この暴徒はパーティをぶち壊しに来たのではない。バイオリンはここだけ操られるようにギターに従い、緊張感あるフレーズも何度も繰り返すことで共に楽曲の空気を塗り替えてしまうのだ。まさに共存するアバンギャルドとクラシック。King Gnuが最も得意とする楽曲構造だ。

 そのあとは再びクラシックギター、そしてストリングスと歌中心の構成へ。何事もなかったように愛らしい世界が戻ってくるが、最後、狂おしい展開がぎゅっと詰めこまれたアウトロが終わった時の、何かとんでもない竜巻に巻き込まれたと思える余韻はどうだ。気品と熱狂。古典への敬意と革命の予感。たった3分50秒。決して長くはなく、ドラマティックな泣きの要素もないのだが、これぞKing Gnuとしみじみ感じ入る1曲である。

■リリース情報
King Gnu『BOY』
2021年12月1日(水)リリース
※表題曲「BOY」先行配信中
ストリーミング/ダウンロードはこちら
◎Blu-ray Disc付き初回生産限定盤(スリーブケース付デジパック仕様):¥4,950(税込)
◎通常盤:¥1,100(税込)

【CD収録曲】
01. BOY 
02. F.O.O.L
【初回生産限定盤 Blu-ray】
King Gnu Streaming Live(30th August 2020)
01. Flash!!!
02. Sorrows
03. Vinyl
04. 傘
05. It’s a small world
06. Overflow
07. 白日
08. Player X
09. Hitman
10. The hole
11. Slumberland
12. 飛行艇
13. どろん
14. Teenager Forever

King Gnu 公式HP

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