tricot、新たな出会いと娯楽を届けた『爆祭』レポ ポルカドットスティングレイ、シナリオアートと繰り広げた熱狂の一夜

 tricotが「勝負を挑みたい」バンドと対バンする自主企画『爆祭』のVol.14が、ポルカドットスティングレイ、シナリオアートを迎えて9月26日に開催された。今年は9年ぶりに『FUJI ROCK FESTIVAL』へ出演、中嶋イッキュウ(Vo/Gt)はジェニーハイでも精力的に活動するなど、バンド本体のコアを固めながら、中嶋のポップネスやキャラクターも拡張しているタイミングだ。

 一番手のシナリオアートのライブ前にtricotメンバーが前説で登場。お揃いのオレンジのセットアップには新曲「Dogs and Ducks」にちなんだ刺繍入り。中嶋がCrystal Lakeの出演が叶わなかったことを残念だと語りつつ、いつもピンチを救ってくれる盟友シナリオアートに感謝し、イベントがスタートした。捌け際にはキダ モティフォ(Gt/Cho)が中嶋のマイクシールドを片付ける姿も見られ、早速笑わせてもらった。

 さて、そのシナリオアート。ドラムセットに座る前、ハットリクミコ(Dr/Vo)がオーディエンスに立つようにさりげなく促し、冒頭からアッパーな「サヨナラムーンタウン」でスタート。中嶋とは高校時代の軽音部からの友人であるハットリ。故郷である滋賀県の情景を想起させるこの曲がしっくりくる。加えて、ここ最近のハヤシコウスケ(Gt/Vo)のボーカルの伸びやかさが鮮烈だ。ファンタジックでありつつ、どこか抑圧された内省的な世界観を持つハヤシの作家性が、そのままの純度で、より遠くに届いている。全身で歌いドラムを叩くハットリ、スキルフルでメロディアスなヤマシタタカヒサ(Ba/Cho)と、ひとり一人の役割が多い音楽性を楽しんでいるのがわかる。

 怒濤のプレイとは裏腹に、ハットリが冗談交じりに何度もtricotのピンチに代役を買って出ていることに触れ「もうtricotに合わせて活動してますから」と笑わせる。後半はリズムのカラフルな変化に息を呑む「アダハダエイリアン」、エクストリームな「ナナヒツジ」などを披露。アンサンブルの緻密さは確かにありつつ、それを意識させない熱い演奏を展開していく。ハヤシは「こういう日は希望です」と、オーディエンスを前にしたライブに感謝しながら、ラストに「シーユーネバーランド」をセット。フリーランスになった彼らの表現を続ける意思が伝わる曲でもあり、同時に令和の今を生きるマインドに響くリアルな1曲。ピンチヒッター以上の役割を果たした40分間だった。

 続くポルカドットスティングレイは、この日が約2年ぶりの有観客ライブだったらしい。とは言え、初めて観る機会を得た筆者にとっては、フロントマンの雫(Vo/Gt)があくまでファンのニーズを反映した曲作りをしているというスタンスがどういうことなのかに注目してしまう。なるほど、4つ打ちの踊れるビートに切れ味のよいギターカッティング、そして良く動くフレージングでグルーヴを生み出すベースは邦楽ロックの王道パターンだ。「トゲめくスピカ」「FREE」を立て続けに披露し、『爆祭』に呼んでもらったことに感謝の言葉を述べる。「みんなが我々を忘れて、ガン見されるかと思っとったけど、温かく迎えてもらって」という一言に拍手が起こる。「声を出して笑えないから、面白いときは拍手ね」と、雫の福岡弁まじりでリーダーシップを感じる煽りがユニークだ。

 歌謡曲的な親しみやすいメロディのダンスチューン「ストップ・モーション」には、中嶋が最近作で書くメロディにも通じるものがあり、しっかりファンクネスを体現できるリズム隊の強さが堪能できる「ヒミツ」も良い。スキルフルで豊かなバンドアンサンブルとキャッチーなメロの融合という接点は3バンドに確かに共通する。ちなみに雫がパーソナリティを務めるラジオに中嶋を迎えた際、tricotの曲をカバーしたいと言ったものの、どれも難曲過ぎるため自分たちの主催イベントまでになんとか演奏できるようにしたいとか。それはぜひ聴いてみたい。そして終盤は言葉数の多さがボカロP的なスピード感あふれるジェットコースター級ナンバー「化身」で畳み掛け、ラストは最新EP『赤裸々』から、サビへの抜け感が爽快な「ダイバー」で締めくくった。

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