AKB48 横山由依、過渡期のグループを牽引した真っ直ぐな思い 加入から卒業発表までを振り返る

 AKB48の横山由依が9月12日、2021年12月をもってグループから卒業することを発表した。2009年9月に第6回研究生(9期生)オーディションに合格し、2015年12月には高橋みなみからバトンを受け継ぐ形でAKB48の2代目総監督に就任するなど、AKB48を牽引したレジェンドメンバーのひとりとあって、ファンからは卒業を惜しむ声や感謝の言葉が相次いだ。

 「ゆいはん」の愛称で知られる横山は、総監督を3年4カ月にわたってつとめただけではなく、2013年にはチームAのキャプテン、2014年には異動先のチームKのキャプテンを任されるなど、常にリーダー的なポジションに抜擢され続けてきた。運営、メンバーからの信頼が厚い一方で、ファンの間では天然キャラとしても親しまれてきた。今回はそんな横山の魅力的な人柄について触れていきたい。

初ランクインの『総選挙』では号泣&震えで立っていられず……

 京都出身らしく、おっとりした雰囲気を漂わせている横山。だが喋りや態度に関しては誰よりもストレートなところがあり、感情も全面に押し出す。包み隠さないところが彼女の良さである。なかでも2011年の『総選挙』で初ランクインを果たしたときのスピーチは語り草だ。19位で名前を読み上げられた横山は号泣し、フラフラになって立っていられないような状態に陥った。司会の徳光和夫に支えられながら、「19位という順位にふさわしい人になれるように頑張ります」と絞り出すのがやっと。スタッフに抱えられてステージを降りるほどだった。

 翌年以降も『総選挙』のスピーチの場では涙、体の震えを見せていた横山。しかし2014年は「自分でも笑っちゃうくらいに震えが止まらない」としながらも、「でも今年は、涙は止まりました。徳光さん、私もちょっとは成長できましたか?」と3年前の出来事をあえて持ち出した内容で笑わせた。格好をつけず、どこか泥臭さがある。『総選挙』での横山由依のスピーチを追うとその人間性の一片がつかめる。

 2012年7月から2020年12月まで放送された関西テレビ『横山由依(AKB48)がはんなり巡る 京都・いろどり日記』も、彼女の素直さが味わえた番組だった。この旅番組では、京都の伝統文化を紹介する横山が、着飾ることなく自然体でロケをおこなっていた。そのなかでポロっとこぼす言葉や表情の数々が注目だった。

 関西テレビのYouTubeチャンネル「カンテレchannel」では、アーカイブとして現在もオフカットが多数掲載されている。2016年4月16日更新「ロケ映像#26」では、引いたおみくじに「金運 義理でのお金の貸し借りは禁物です」と書いてあり、大きく口を開けて笑顔を見せた後「ちょっとジワりますよね……」とボソッと一言。撮影スタッフもそのコメントに声を出して笑っていた。また、2014年8月21日更新「ロケ映像#14」で舞妓さんに変身した際には、「普段は綺麗と言ってもらうことがない。そういうキャラじゃないから言ってもらえない」とはっきりした口調でグチる一幕も。肩の力を抜いて進行する同番組だが、そのなかでも言いたいことはズバっと口にする。これが横山由依らしさである。

言語学者が横山のスピーチを絶賛「行儀よくしゃべる言葉よりも響く」

 横山の、おもしろくも危なっかしいコメント力を絶賛するのが言語学者・金田一秀穂だ。書籍『涙は句読点 普通の女の子たちが国民的アイドルになるまで AKB48公式10年史』(2016年/日刊スポーツ新聞社)で金田一は、横山の総選挙でのスピーチについて「自分の言葉を使っている感じがしました。出来合いの言葉というより、考えて、考えて出した言葉でしたね。感情を思いのままに出していて、はっきり言ってグダグダです(笑い)。でもかわいげがあるんですよね。お行儀よくしゃべる言葉よりも、響いてきました」と評価した。

 金田一が「感情の垂れ流し」と称した横山のスピーチだが、そこに彼女ならではの天然さがまじわったとき、良い意味での混乱が生まれる。2016年3月27日、横浜スタジアムでひらかれた高橋みなみの卒業公演で、横山は「これからAKB48の第2章が始まる」と力強く言い放った。しかし、2012年に前田敦子、2014年に大島優子が卒業し、またグループ初期のメンバーの多くもすでに羽ばたき、新時代を担う面々が続出しているなかでのこの発言に、メンバーとファンはびっくり。ドキュメンタリー映画『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』(2016年)では、横山のこのコメントを聞いて「え、これまではまだ第1章だったの?」「もう何章目かに来ていると思ったのに」など苦笑いを浮かべるメンバーの姿があった。しかし横山の迷スピーチは、高橋が不在となる不安を吹き飛ばすものだった。ビシッと決めるところで、ちょっぴり隙が見えてしまうところがチャーミングでもある。

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