V系アーティストは2次元作品でどう描かれてきた? 『ヴィジュアルプリズン』スタートを前に考察

 このように、様々な形で2次元の作品に描かれてきたヴィジュアル系アーティストだが、先述した作品の中でも、『FlyME project』のDRINK ME以外は、黒を基調としたダークな衣装、派手な髪型、薔薇や十字架などの古典的なモチーフなどで、“ヴィジュアル系らしさ”をわかりやすく表現してきた。しかし、実際のヴィジュアル系バンドの見た目や表現する世界観は、時代を重ねるごとにかなり幅広くなってきているため、画一的なスタイルだけではリアリティに欠けてしまうこともある。むしろ今のシーンでは、退廃的でダークな世界観を表現するバンドのことを、“古き良き”と言いがちだ。そう考えると、ヴィジュアル系アーティストを2次元で描くとき、作り手は、キャラクターとしてのわかりやすさとリアリティ、その両方を成立させることに試行錯誤しているのかもしれない。

 では、『ヴィジュアルプリズン』では、どのようにヴィジュアル系アーティストを描いているのか。本作品には、O★Z、LOS†EDEN、ECLIPSEという3つのユニットが登場する。公式サイトで公開されているフライヤーを見ると、各ユニットの世界観が明確に描き分けられているのがよくわかる(※1)。

 本作品のおそらくメインユニットに当たるO★Zは、統一感のある青を基調とした軍服テイストの衣装に、少年のようなルックス。赤と黒の衣装やメイクが印象的なLOS†EDENは、最も攻撃性を感じさせるハードな見た目のユニット。4人全員に牙が生えており、本作品の最大の特徴でもあるヴァンパイアの要素が強く表現されている。白い衣装に青い薔薇をモチーフにしたECLIPSEは、まるで美しい戦士のような2人組である。

 中でもO★Zのフライヤーは、パッと見てすぐに「リアルだな」と感じた。鮮やかな青を基調とした軍服テイストの衣装は、古典的なモチーフではなく、ベルト、タッセル、スタッズなどの細かな装飾で華やかな印象になっている。ヘアスタイルもそこまで奇抜ではなく、帽子などで衣装とのバランスを取っている。また、シャツの形やリボン、ネクタイなど細部が一人ひとり異なっており、アイシャドウやリップの色もキャラクターごとに違う。このように、全体的な統一感は保ちつつも、個人の雰囲気や好みに合わせて細かい部分を変えることは、実際のヴィジュアル系バンドでも多い。加えて、メンバーの憂いを帯びた表情やポーズも、実にそれっぽい。わかりやすいヴィジュアル系らしさを安易に取り入れるのではなく、細かなリアリティを追求しているため、作り手のこだわりが伝わってくる。他の2ユニットも、これまでに描かれてきたヴィジュアル系像や一般的なイメージにとらわれず、個々のユニットとしての世界観を感じさせるデザインになっている。

 公式サイトで公開されている、キャラクター原案・片桐いくみのコメントを読むと、様々な試行錯誤の結果、このキャラクターたちが生まれたことがよくわかる。

キャラクター達をデザインさせていただくにあたって、最初にぶちあたった壁が「ヴィジュアル系らしさとは?」でした。これぞと思うアイテムを詰め込んでみてもどこか噛み合わず、ステージ衣装の姿は特に難航したと記憶しています。実際に活動されている方々から学んでいくほど、これが正解というアイテムも括りもないのでは?むしろ世界観、思想を自由に表現する事こそを大切にされているのでは?と思い至り、そこから彼らは今の形になっていきました(※2)。

「ギルティ†クロス」
「ギルティ†クロス」

 さらに、本作品には90年代のヴィジュアル系バンドも登場する。それが、ECLIPSE(初代)である。垂直に髪を立てたスタイルに、大きく胸元が開いた派手な衣装に身を包んだ彼らを、“かつて活躍していた伝説のバンド”という設定で登場させることで、現在のリアルだけではなく、ヴィジュアル系シーンの時代の変化も表現しているようだ。また、アニメの挿入歌であるECLIPSE(初代)の楽曲「ギルティ†クロス」は、ヴィジュアル系の音楽を「世界にも通用する日本の音楽カルチャー(※3)」と考える上松範康が作詞作曲を担当していることもあり、激しさと美しさを兼ね備えた王道のヴィジュアル系サウンドに仕上がっている。キャラクターだけではなく、音楽面においても、ヴィジュアル系へのこだわりを強く感じられる一曲だ。

 また、8月8日に公開された、各ユニットの楽曲名についても少し触れておきたい。エンディングテーマのLOS†EDEN「BLOODY KISS」、挿入歌のECLIPSE「玉座のGEMINI」は、キャラクターデザインが表現するユニットの世界観とリンクしたような楽曲名になっている。しかし、オープニングテーマのO★Z「残酷シャングリラ」については、キャラクターデザインから感じた爽やかな印象と、毒っけのある楽曲名とのギャップに意外性を感じた。この3曲も、上松範康が作詞作曲を担当しているため、各ユニットにふさわしいこだわりの楽曲に仕上がっているはずだ。アニメでは、これらの楽曲にも注目したい。

 『ヴィジュアルプリズン』は、まだ放送開始前のため情報が少ないが、今公開されている情報だけでも、非常に深く作りこまれた作品であることがわかる。アニメのヒットにも大いに期待を寄せたい。今回はヴィジュアル系の2次元での描かれ方をテーマに、キャラクターデザインを中心に考えてみたが、実は他にも気になる要素がたくさんある。最も気になるのは、やはり“ヴィジュアル系バンド“ではなく、”ヴィジュアル系ボーカルユニット“として描かれている点である。そして、そのユニットが”対バン“ではなく”ライブバトル“をするという。さらに、そこへヴァンパイアというファンタジーも加わる。まだまだ語りつくせていない部分があるため、放送開始後にはまた別の視点からも本作品を考えてみたい。

※1:https://visualprison.com/assets/img/special/leaflet/leaflet.pdf
※2、3:https://visualprison.com/staffcast/

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