鹿野淳が語る、相次ぐフェス中止によって“本当に失われているもの” 『VIVA LA ROCK 2021』開催までの過程も振り返る

アーティスト&お客さんの気持ちを反映するための施策

ーーそうした参加者からのポジティブな反応もあった反面、「本当にフェスをやるのか?」っていう批判的な意見も無視できなかったと思いますけど、そこはいかがでしたか。

鹿野:そういう意見も踏まえてお客さんの気持ちを知ることを大切にしました。要するに、フェスの開催にあたって具体的に何が嫌で、何が解決したら行きたくなるのか、それも何が不安にさせるのかが知りたかったんですね。メディアが言っていることの他に何かあるんじゃないかと思って。あと、なるべく埼玉県内の方々の声を探してチェックしたんですけど、つまりはあらゆる当事者の方々の本音を知りたかったんですよ。その一環としてフェスや音楽好きの方の生の声を聞けると思って、インスタライブを何回かやりました。「みんな何が嫌なのか言ってくれないか?」っていう場を設けたんです。まあ開催する側としては非常にSM的な行為になっていくんですけど(笑)、その意見をもとにリカバーできるんだったらいいなと思って。自分はフェスだからアルコールを提供したかったけど、皆さんの意見を聞いて「そういうことじゃないんだな。お酒はやっぱり出さない方がいいんだな」って思えたりとか。世の中の気分に従うんじゃなくて、そういう対話の中で具体的に決めていった部分が多かったです。あと、やっぱりフェスティバルであることの一つの要素として、スタンディングエリアを作ることにこだわりたかったんです。これはこだわらなければ絶対にできないものでした。つまりは「全席指定でフェスを開催する」ことになったということです。このスタンディングは当初はかなり反対されましたけど、逆に反対されることによって、新しいスタンディングの在り方を作ることができたので、むしろ感謝をしています。

ーーなるほど。

鹿野:ただ、正直いうと去年の夏から秋って、「さすがに冬フェスはやれるだろうから、そのいい部分を拝借させていただいた上で、さらに精度を上げて春フェスをやる。そこからさらに精度を上げて次の夏フェスが生まれていくような状況が作られていって、エンターテインメントやフェスシーンがあの頃のように戻り始めればいいな」っていうのが勝手な自分のストーリーだったんです。でも、一番の誤算は冬フェスがほぼなくなってしまったことで、僕らも拝借するものがなくなってしまい、これは困ったなと。それと同時にアーティスト側から「ビバラに出演させてもらえないか」っていう連絡がすごく増えたんです。「さすがにもう開催中止には耐えられないし、春には絶対フェスに姿を表したい」みたいな形で、季節を越えて役が回ってきているんだなっていうのを感じました。そういう状況の受け皿として、結果的に5日間連続開催になってしまったということです。

ーー前代未聞で驚きました。

鹿野:いやぁ、5日間連続は今後もないんじゃないですかね。何しろ連続ですからね、少なくとも自分は二度とやりたくないです(笑)。

ーースタッフの体力的な問題もありますし、それによって感染リスクが多少なりとも上がる可能性もあるわけで。いろいろ踏まえても譲れない結論だったんでしょうか。

鹿野:最終的に1日あたり1万人の方に来ていただいて、確かに今までよりも少ないとはいえ、「1万人が集まって5日間で5万人をお預かりするのか」「1公演で5万人もの集客をしたイベントっていつぶりなんだろうな、すごい管理能力が必要だな……」というのは頭をよぎりました。けど、それでもフェスをやる覚悟を決めた時点で、5日間やろうが1日しかやらなかろうが、結局用意することは同じだなと思ったんですよね。あとは持続力。なので、フェス側の疲労のことはもちろんケアしなくちゃいけないけど、それ以外で迷いはなかったです。関東甲信越では1年半ぶりの大型フェスだったから、アーティストにしても正直『VIVA LA ROCK』に出たいではなく、「いい加減フェスに出たい!」っていう気持ちが大きかったんじゃないかなと思っていましたし、実際それで全然いいと思っていました。なのでやるなら皆さんの気持ちをちゃんと反映するフェスにしなきゃいけないっていう気持ちが強かったです。

ーー横並びにステージを隣接する2ステージ制というのはどうやって決まったんですか。

鹿野:今までのステージレイアウトと比べて、破格にお客さんの移動が少なくなるからです。1つの椅子に座れば、ある程度両方のステージが見られるデザインなんですよ。どちらのステージでライブをやっても、スピーカーは2ステージ両方からガンガンに鳴らしましたから、場所によって音が楽しめないということもないわけです。ビバラは音量制限のない、しかも風に音が流されたり飛ばされることもない爆音フェスなので、音はいくらでも出そう、久しぶりにみんなに爆音を味わってもらおうと思いました。移動が少なくなるのは感染対策として重要なことだし、リスクヘッジとしていいテーマだと思ったのでやりました。

ーーあとは予算面の調整もいろいろネックだったのではないかと想像しますが。

鹿野:これは去年オンラインフェス(『ビバラ!オンライン 2021』)を開催した時も同じ気持ちで始めたんですが、助成金が出ない状態でトントンになることを目指したいわけです。だけど、やはりどうにも無理なんですよね。その上で、2022年以降『VIVA LA ROCK』ができないほどの赤字になるんだったらやれないなとは思ったんですけど、「来年も頑張ろうね。今度こそ収益的にもリベンジだね」って言えるシミュレーションが立つなら、やることが大事だっていう気持ちだったし、そこについてもチームが一枚岩でちゃんと共鳴し合いながら開催できたのかなと思います。

「今年のビバラはやれることを全てやり切った」

ーー不確定要素が多いとはいえ、今年得たものを活かして、来年は『VIVA LA ROCK』をどうしていきたいかっていう現時点での構想はありますか。

鹿野:チーム内の各部署がいろいろ出し合って、みんなで長い反省会をやりましたけど、今年やったことで来年以降に活かせるものもたくさんありました。例えば、分散入場・分散退場は、コロナが終わってからもやった方がいいんじゃないかな。人の流れがすごくスムーズになりますからね。あと、アーティストグッズの販売も事前に何時から何時って決めて整理券を配ったら、非常にスムーズに買うことができていました。これもコロナ関係なくいい企画だったんじゃないかと思っています。こういうことが何個かあったんですよね。

ーーコロナ対策として始めた施策が、通常に戻ったフェスにも活かされるんじゃないかと。

鹿野:とはいえ話は戻りますけど、やっぱり今年の夏フェス事情は僕の想像とは違うものになっているんです。かなり悲観的になってますし、現時点で来年このフェスをやる意味合い、スローガンを具体的に作るのは難しいと思っています。2021年はある意味シンプルで、「何がなんでもさいたまスーパーアリーナに戻ってお客さんを入れてやるんだ」というコンセプトだけでしたから。今の時点では「来年はフルキャパ&フルスペース!」をテーマにして、今までと同じようにスタジアムモードで何万人のお客さんが不安なく自由に楽しめるフェスにしたい。『VIVA LA ROCK』にとって生命線だったけど今年できなかった屋外エリア(VIVA LA GARDEN)を開いて、みんながビアガーデンで楽しんだり、キッズスペースで子どもたちが遊んだりして、そこに最高の音楽が流れているっていうあの場所を取り戻したいと思ってます。だけど、こればっかりは我々が判子を押して勝手にやれるものではないから、どうなるかなと思っていますが、まず思うことは大事だなと思い、申し上げておきます。

 これも語り出すと長くなるけど、これまでの『VIVA LA ROCK』ではモッシュとダイブを禁止にしていないんです。それってモッシュとダイブをやってほしいわけじゃなくて、ライブハウスができて、ロックが活性化して......そういう何十年もの歴史の中で、「モッシュとダイブを楽しむ」っていう遊びの文化が着実に根づいて、今もあるんですよね。それはみんなが長い時間をかけて作り上げてきたロックの遊び方なんだから、それを風紀委員みたいに「良くないからやめろ」って竹刀で叩くのは健全じゃないなと思って、禁止していなかったんです。もちろん禁止した方が安全だし、そういうのを嫌う音楽ファン、ロックファンが存在しているのもわかってます。だけど、とにかくNGをなるべく出さないという気持ちで、腹を括って責任を取ろうと思ってやってきました。これからもそうありたいと思ってます。だけど、そうやってライブを全身全霊で楽しむ雰囲気がいつ戻ってくるのか、今は全然わからないですよね。そこに対してはかなり悲観的です。

ーー逆に、今年の『VIVA LA ROCK』で解決しきれなかったことは何でしょう?

鹿野:今年の『VIVA LA ROCK』に関しては、やれることを全部やりきりました。悔いは全くないし、そんなもんがあるフェスならやらなきゃよかったと思いますから。実際にフェス自体は100点ではなかったと思いますよ。間違いなく今、100点のフェスなんて作れません。だけど間違いなくビバラの全てのスタッフは100点でした。本当に素晴らしかった。個人的に言わせてもらえば、お客さんと出演してくださったアーティストはみんな200点でした。

 つまり、お客さんにとっていいことだったのか悪いことだったのか、この後のエンターテインメントやフェスに対して何をもたらすのかは本当にわからないですけど、『VIVA LA ROCK』としてやり残したことは一切ないです。その意味では、今までの8回の開催の中で断トツの成功だと思っています。決めたことを徹底した精度でお客さんに届けられて、それをみんなに守っていただいた。アーティストも同様で、その意味では曖昧な部分が一切なかった開催のフェスでした。自分が関わっているとは到底思えないすごいフェスでしたし、今までとは比べ物にならないくらい優秀な開催だったんです。結果、『VIVA LA ROCK』というチームは、ものすごく頑強なものになったと思いました。

ーー鹿野さん以外にも、スタッフの方から思いもよらない意見が出たこともあったり?

鹿野:そうですね。大体1日目っていつも何か起こるんですけど、今回もそこから2日目への変更案を、1日目が終わった後で深夜までかなり語り合いました。フロアに丸く広がってディスタンスを取りながら各部署がいろいろ議論し合う、さながら魚民の座敷で行われる忘年会みたいな景色でしたよ。「ああやればいいと思うんだよ!」「いや、こうなっちゃうんじゃないの?」「でもさ〜」みたいな議論を3〜4時間やって、結果的に2日目からいろいろなことが一新できたので良かったです。スタッフワークの力です。

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