『Slow Dance EP』インタビュー
SOMETIME'Sとしての自己紹介が完結ーーSOTAとTAKKIが語る『Slow Dance EP』でも徹底したサウンドのこだわり
2017年に結成されたSOTA(Vo)と TAKKI(Gt)によるSOMETIME’S。2020年10月リリースの初の全国流通EP『TOBARI』を経て、最新作『Slow Dance EP』がリリースされた。
USENやラジオ、サブスクリプションサービスを介して彼らの音楽に出会う人が増えており、一度耳にするとつい検索などで調べたくなる“聴き逃がせない魅力”があると音楽ファンの間でもじわじわと話題を呼んでいる。インパクトの強さやキャッチーさが特徴的なバイラル系ヒット曲が主流となりつつあるポップスシーンの中でも、とにかく良質なサウンドを届けたいという一貫した思いを持って活動している彼ら。インディーズ時代に初めて二人で作った思い出深い1曲「Slow Dance」をリアレンジし、満を持して世に送り出す『Slow Dance EP』にどのように向き合ったのか。SOTAとTAKKIに話を聞いた。(編集部)
英詞に対する苦手意識を取り払えるような存在になりたい
――デビューから約半年が経って、周りの見る目や状況の変化を感じることはありますか?
TAKKI:世間の動向は多少サーチしてますけど……特に変化はないですね(笑)。
――ハハハ。1stEP『TOBARI』はリリースから3カ月で各社サブスク累計再生数200万回を突破し、色んなラジオ番組でも推されてるみたいですけど。
TAKKI:正直、YouTubeとかサブスクの再生回数は、僕らの知ってる単位じゃないので、何万回がすごいのか分かってなくて。世間の反響で言えばあまり実感は湧いてないですね。ただ『TOBARI』を作ったおかげで音楽的な成長ができたのは間違いないです。
――以前インタビューをしたとき、TAKKIさんが「今、2ndEPを制作している最中なんですけど、サブスクのプレイリストを見てたら“カッコいい音楽”とは何かが分からなくなってきた」と言ってたのが印象に残っていて。
TAKKI:うんうん。あの頃は自分たちの曲が配信されること自体初めてで、サブスクの聴かれ方に対してデリケートになってましたね。でも最近はプレイリストを見ながら、「SOMETIME’Sとコレが似てる」というのがなんとなく分かるようになった気がします。似てると思う感性が分からなくもないなって。
――リスナーがSOMETIME’Sをどう見てるのか知れたと。
TAKKI:そうですね。僕らはミュージシャンなので、同じようなルーツを感じる音楽とか、同じようなグルーヴにシンパシーを抱くんですけど、割とリスナー側はそういうことってどうでもよくて。何となく「このアーティストが好きな人はコレも好きらしい」みたいな。アーティストだけじゃなくて、リスナーにもシーンがあるんだなって。
――プレイリストの普及によって、似たような音楽性のアーティストと並べて聴かれる機会が多い中、SOMETIME’Sが他よりも優れているのはどこだと思いますか。
SOTA:今も昔もJ-POPと言われている音楽に英詞がしっかり入っている歌詞は、あんまりないと思うんですよ。そもそも英詞が入っているだけで「意味が分からないから聴かない」という意見も往々にしてある。その認識を変えていきたいんです。今のプレイリストで聞く聴き方であれば、普段は英語の歌詞にアレルギーがある人でも、語感やメロディの良さなど、アレルギーが起こらない状態で聴いてもらえる。そこを逆手にとった挑戦をしたいと思っています。
――とはいえ、歌詞を1カ国語に限定した方がメッセージは届きやすいんじゃないですか?
SOTA:僕は小さい頃から松任谷由実さんやMr.Childrenなど、王道のJ-POPにすごく影響を受けてきました。その一方で洋楽への愛情もすごくある。だからこそ、双方の良さを上手に取り入れた楽曲を聴かせたいんです。英詞に対する苦手意識を取り払えるような存在になれれば、他のアーティストにはない強みになると思ってますね。
――そもそも組み合わせる難しさがありますよね。英詞を入れた途端にダサくなることもあるし。
SOTA:そうですね。それはSOMETIME’Sを通しての実験でもあり、挑戦でもある。英詞と日本詞のミックスがスタンダードになれば、その草分け的存在に僕らがなると思います。
――ちなみに前作と今作で、制作にかける思いは違います?
SOTA:『TOBARI』に関しては、間違いなくあの時点でのSOMETIME’Sの最新形を一番良い状態で表現した作品でした。今回『Slow Dance EP』に収録した「Slow Dance」と「Raindrop」と「シンデレラストーリー」は、インディーズの頃に発表した過去の楽曲をリアレンジしているので、ある種1stEPで僕らのことを知ってくれた人に「初期にこういう曲たちがあった上で、デビュー作に繋がったんだよ」とルーツを提示できた気がするんです。2ndEPをリリースして、ようやくSOMETIME’Sとしての自己紹介が終わった気がしてます。
――SOMETIME’Sの新旧が『TOBARI』と『Slow Dance EP』で完結したと。
SOTA:そうですね。
――タイトルにもなっている「Slow Dance」って、SOMETIME’Sを結成して最初に作った曲ですよね。
TAKKI:はい。2016年の冬に初めて2人で作りました。
SOTA:今回「Slow Dance」のリアレンジはかなり苦戦したよね。ギターがずっとダビングダビングで重なっている元々の「Slow Dance」も一つの完成形ではあって。それをずっと聴いてここまで来たのもあるし、リアレンジの再録自体が初めての経験でもあった。そういう意味ではすごく良い挑戦になったと思います。
――具体的にどこが変わったんですか。
TAKKI:サウンドで言うと、元々は3本のギターを重ねた音がずっと鳴っている感じだったので、物量は少ないのにギターの周波数帯の密度が高くて。音がギュッとしている分、丸くまとまりすぎてレンジが広くないサウンドでした。当初はサーフな印象が色濃く出ていたんですけど、もうちょっとモダンなサウンドにしたら、絶対にイケるだろうって確信もあったんです。だけど、どう試しても「これは改悪に近いんじゃないか」みたいな。
――それだけ「Slow Dance」は完成されていた。
TAKKI:弦を乗せては抜き、管を乗せては抜き、全部乗せては抜いて。そんな感じで色々と試しましたね。最終的には大きなヴァースは変えずに、今までミュートバッキングで攻めていたところをアルペジオにしたり、下で弾いてたカッティングを高くしてみたり。アプローチや楽器の音色を変えていったら、良い具合にまとまりました。とはいえ、アレンジ段階だと正直そんなにいなたさが取れてなかったんですよ。ミックスエンジニアの西陽仁さんにトラックダウンしてもらったことで、やっと活路を見出せました。
――ボーカルの変化はありますか。
SOTA:かなりあります。SOMETIME’Sってお互いに違うバンドをやってから組んだユニットなので、そこまで始めたときの初期衝動はない印象だったんです。いざ3年前に録ったボーカルを聴いてみると、意外にもSOMETIME’Sとしての初期衝動がめちゃめちゃ詰まってて。
――言葉にすると今と何が違うんですか。
SOTA:SOMETIME’Sを始める前、僕はFLOWみたいなバンドをやっていたので、あのときの歌声ってどこか若いんですよ。反対に今歌うと「声がスモーキーすぎる」と思った。あのときの声をどうやって今の自分が乗り越えていくか、みたいな感じでしたね。
――2人の話を聞いていると、今作って過去の自分たちとの対峙だったのかなって。
SOTA:そうですね。結成から4年が経ってすんなりアップデートされていると思ってたんですけど、アレはアレで良くできてた。当時のアプローチでしか作れない音色だったなと感じました。
TAKKI:他の楽曲は目指すべきゴールが見えた上で、どうやってサウンドを具現化していくかの作業だった。だけど「Slow Dance」は全員が「ヤバい! ゴールが見えない!」という感じで、アレンジャーを含めて頭を悩ませましたね。どれも良いから悩んだわけじゃないんですよ。どれも不正解な気がするから悩んでた。悪くはないけど違うかも、みたいなところまでしかいけないのが「Slow Dance」でしたね。アレンジを色々と変えてみようとした結果、振り出しに戻ってきて「何が正解なんだ!?」みたいな。
――負のスパイラルに。
TAKKI:そうそう(笑)。「このいなたさが取れれば良いね」と言ってたけど、正直払拭できている実感がなかったんですよ。
――その「いなたさ」って何ですか。
TAKKI:先ほども言ったサーフっぽさのことですね。だけど「Slow Dance」が持っているサーフ感が全部取れてしまうと違う楽曲になってしまう。多少はいなたさがないと、もはや「Slow Dance」じゃない気がしたので、そことのせめぎ合い。いなたさって意外とサウンドの質感で変わったりするじゃないですか。それこそキックの音はエンジニアさんのおかげで印象がガラッと変わりました。キックのトリガー一つで、こんなにもダンサブルになるのか! って。
SOTA:その細かい音の違いが分かるまでは、ギャンブル的に試してたよね。
TAKKI:そうだね。だからプリプロの段階までは、長く暗いトンネルを歩いてるような感じでした。
――そんなに苦労したのなら「Slow Dance」を収録しない選択肢もあったんじゃないですか。
SOTA:いや! それは考えなかったですね。
TAKKI:結成時からずっと日の目を浴びなかった「Slow Dance」という曲を完成させることが、僕らにとって最大の喜びでもありました。だから妥協する考えは一切なかったですね。