藤井風「きらり」、バイラルチャートでも存在感 言葉をクリアに印象づける歌唱にも注目
そして、同年5月3日にデジタルリリースされたのが8th配信シングル「きらり」である。同曲は、5月24日付のSpotifyバイラル・デイリーチャートで1位を獲得。その後、同チャートの3位以内をキープしている。「きらり」は、藤井がHonda「VEZEL」のCMソングとして書き下ろしたた楽曲である。Honda「VEZEL」のCM曲は、ここ数年、Suchmos、SIRUP、King Gnu、Friday Night Plansなど、一貫して都会的で洗練された音楽が起用されてきた。Honda「VEZEL」は、街で乗る際の快適性を重視した都市型のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークルの略/多目的車)であり、日本市場のサイズ感では“コンパクトクロスオーバー”に属する。「クロスオーバー」「街」という条件を満たしたのが、前述したアーティストたちだったのだろう。つまり、大人のドライブを彩る楽曲が求められたわけだ。
Spotifyで間もなく590万回再生を突破しそうな「きらり」は、スムースでどこか無重力なグルーブが特徴のアップチューン。都会の高速道路が脳裏に浮かぶようなスピード感も心地いい。日本語の癖を味方につけた、藤井の言葉選びの才能が光る歌詞もいい。歌詞から言葉を拝借するなら〈さらり〉とすごいことをやってのけるのが、藤井風の最大の魅力であるが、今作は特にその〈さらり〉具合に磨きがかかったように思う。ブラックミュージックやアバンギャルドな要素が満載ながら、〈さらり〉と極上のポップミュージックにまとめているところがお見事。
さらに、曲中には〈さらり〉〈きらり〉〈ほろり〉〈ゆらり〉といった韻を踏んだ言葉が何度か登場する。センテンスの最後に使われるパターンが多いが、同じボーカルアプローチは皆無で、サビではファルセットを交えたクリアな高音も堪能できる。譜割りはシンプルな曲であるが、ドラマティックな構成であるがゆえに、ボーカリスト藤井風のスキルが改めてわかると同時に、音楽という表現に対するフットワークの軽さが感じられる1曲だ。
※1:https://s.awa.fm/artist/21ccce9a6c11d2e69595
■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
Piccolo 266 インスタグラム(@piccolo266)