『アメリカン・ユートピア』の希望を感じさせる音楽 デヴィッド・バーンが語る、選曲の物語性

デヴィッド・バーンが語る、選曲の物語性

 複数のミュージシャンが同じビートを刻む高揚感と一体感は、『アメリカン・ユートピア』のサウンド面のかなめだ。この困難な時代を乗り切るにはそうすればいいのか。それが『アメリカン・ユートピア』のテーマのひとつであり、バーンのMCには何度か「つながる」という言葉が登場する。つながることの大切さを、バーンはドラムサウンドを通じて観客に感じさせてくれる。また、バーンはMCで移民問題に触れて「このバンドは多国籍。僕もスコットランドから移住した」と発言しているが、カナダ、ブラジル、フランス、アメリカと様々な国の出身者が集まったバンドが、ステージで開放感溢れる音楽を奏でながらパレードをしている姿を見ているだけで、バーンの想いが伝わってきて胸が熱くなる。

 『アメリカン・ユートピア』は様々な社会問題についてバーンが率直に触れているのも特徴で、そこが『ストップ・メイキング・センス』との違いでもある。人種差別に抗議するジャネール・モネイのプロテストソング「Hell You Talmbout」の熱気溢れるカバーはショウのハイライトで、そこからメンバー全員でアカペラで歌う「One Fine Day」と続く流れは感動的だ。バーンは常にユーモアに満ちた語り口で観客に語りかけ、音楽で想いを伝える。ステージで「Everybody’s Coming To My House」を歌った時は、この曲がデトロイトの学生たちにカバーされたことを紹介。「オリジナル曲の主人公は客が家に来ることをあまり快く思っていないけれど、学生たちのカバーからは客を迎え入れる温かな気持ちが伝わってきたんだ」と微笑む。同じ歌詞、同じメロディでも、歌う人の気持ち次第で印象は変わる。もしかしたら、一人一人の気持ちの持ちようで世界も変わるかもしれない。『アメリカン・ユートピア』で奏でられるのは、そんな希望を感じさせる音楽だ。

 それにしても驚かされるのは、70歳を前にして今なお衰えることのないバーンの創造性と艶やかな歌声だ。音楽の中心にあるデヴィッド・バーンの力強い歌声が、たとえ世界が厳しい状況でも、ユートピアを夢見ることの大切さを教えてくれた。

【インタビュー前編】
スパイク・リーと共作 デヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』の皮肉と希望

■公開情報
『アメリカン・ユートピア』
5月7日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
監督:スパイク・リー
製作:デヴィッド・バーン、スパイク・リー
出演ミュージシャン:デヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世
配給:パルコ ユニバーサル映画
2020年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/107分/原題:David Byrne’s American Utopia/字幕監修:ピーター・バラカン
(c)2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:americanutopia-jpn.com

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