西城秀樹「YOUNG MAN」ヒットの理由は“無思想”にある マキタスポーツ×スージー鈴木が教える、80年代歌謡曲の紐解き方
そして対比として、1985年にアメリカの名だたるアーティストが一堂に会したUSA For Africaによる「We Are The World」を例に挙げた。英語の教科書にも登場するエピソードで、授業を通して知った人も多いだろう。
「アフリカの難民を救済するんだってことで作られた歌です。チャリティですから、皆さんがギャランティとかは関係なくそこにレコーディング参加してすごいアーティストたちがそれを歌い、それの上がってきた売上とかを寄付するっていう。その企画自体がみんなにはわかってるからその物語に乗っかってるわけですよ。みんなが応援するがごとく、それにお金払ってその曲を受け取るということだったんですけど、それが文脈じゃないですか」
それに対して、バックボーンをあえて取っ払ったのが「YOUNG MAN」。「この曲、元ネタにはそういうこととか文脈って盛り込まれてるんだけど、それを外してやることによってすごい価値のあるものになってるということですね」当時の日本の時代背景も手伝って、チューニングを施すことになったのだが、結果として楽曲の良さが際立った。
歌詞の文脈、ストーリー性のある音楽と、それをあえて無思想にした「YOUNG MAN」を比べながら、ヒットソングの成り立ちを解いた。
番組では他にも、吉川晃司と布袋寅泰によるユニット、COMPLEX「BE MY BABY」を取り上げていた。心地いいコード進行の秘密を、あえてコードを変えて聴かせた。それによって布袋らしいコード進行や音へのこだわりに触れる一幕も。MC二人によるCOMPLEXのMVモノマネでマキタが腰を痛めかけるというくだりを挟んだのち、「布袋センスと吉川センスが融合しているんですけど、ちょうどいいんですよ」と解説。アコースティックギターを手に取り、重要なのは歌い出しの「F#m」にあると指摘し、マイナーコードにいかないverやマイナー過ぎるverなどの「ちょうどよくないBE MY BABY」を弾き比べて違いを検証。スージー鈴木も「A→D→E→F#m」という進行に舌を巻き、布袋の作曲家としてのセンスを褒め称えた。
続けて紹介した杏里「悲しみがとまらない」では、マキタ的“元気まんまん”ポイントとして「北の国から」「必殺シリーズ」のテーマなど、名だたる楽曲を演奏するトランペッターである数原晋のトランペットソロをフィーチャーする。ソロフレーズがThe Stylistics「愛がすべて(Can't Give You Anything)」のオマージュから始まることを指摘し、フィリーソウルやモータウンといった70年代ブラックミュージックを詰め合わせたサウンドプロダクトを解説。「悲しみがとまらない」を一例に歌謡曲とアメリカンポップスの結びつきの深さが浮き彫りになった。
物心ついた頃から自然と耳にしてきた楽曲のバックボーンを知る機会は思いのほか少ない。ついヒットソングや好きなアーティストの世界観、自分好みのテイストに偏ってしまいがちだが、そこから一歩踏み込んだ視点を得ることで、自分が好きなアーティストに対する見方や楽曲の解釈が随分と変わる。
普段は、好き、いい曲、というどこか感覚的な解釈から、音楽がいかに時代や社会と密接しているのかという学び、そして一曲が誕生するまでのヒストリーに触れることで、アーティストへのリスペクトも生まれる機会になるのではないだろうか。
■柚月裕実
Web編集者/ライター。企画、担当編集、取材・執筆してます。
日本の男性アイドルの頑張りを見ては涙する30代。
始まりはSMAP中居さん。 KAT-TUN、NEWS中心の事務所担。年中HDDの整理と原稿書きに追われています。
■番組情報
『ザ・カセットテープ・ミュージック』
2021年5月16日(日)放送
第73回「4年目突入!元気になれる曲」(再放送)
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年5月23日(日)放送
第74回「~スージー鈴木の精神世界2~」(再放送)
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年6月6日(日)放送
第89回「ずっと80年代でいいのに」
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年6月13日(日)
第90回「第一回!不幸歌合戦」
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
公式サイト
https://www.twellv.co.jp/program/music/cassettetapemusic/