Amazon Music『西寺郷太の最高!ファンクラブ』インタビュー
西寺郷太が伝えたい少年隊と錦織一清の功績 ポッドキャストでは語りつくせなかった、それぞれの偉大さ
錦織さんは知識量も記憶力もすごい
ーー一緒に舞台を作るようになって、改めて感じた錦織さんのすごさみたいなものって、やっぱりあったんですか?
西寺:そうですね......恐ろしいほどの天才だと思うんですけど、それがちょっと怖いときもあって。錦織さんって、演出しているとき、役者にほとんどダメ出ししないんですよ。一度は指摘するんですけど......錦織さんは、役者が変わらない場合はそのまま何も言わずに一回失敗させるんですよね。僕なんかは、失敗する前にもう一度強く言って止めてあげたほうが親切なんじゃないかとか、形にするためにはその場で言ったほうがいいんじゃないかと思っちゃうんですけど。錦織さんは「結局、自分で失敗したなって思わないとわかんないんだよね」「それ以上言うと本来のいい部分も失われるから」と。小さなミスをさせて、気づく相手かどうかを見極めていらして。だから僕も、実は何度か失敗をしているんですが......後から考えれば錦織さんの表情の変化とかで「そういえば......」って薄っすら思い出したりするんです。その後、錦織さんに「やっぱり、やり過ぎたかもしれないです」と言ったら、「あ、わかった?」みたいなことが結構あって。
ーーその場で指摘するのではなく、相手が気づくのを待つタイプというか。
西寺:小学6年生からジャニーズ事務所に入り、バックダンサーからスーパースターになった方ですから、先輩や共演者、後輩も数多く見てこられて。何もかも全部を見通しているような怖さがある。今、こうやって親しくさせていただいたり、一緒にお仕事をさせてもらったりしていますけど、いまだに緊張感は常にあります。「錦織さんは、どう思っているのかな?」と、いつも考えていて。あと、錦織さんはすごく上品で謙虚な方なので、自ら自分の業績を話したり、自分で前に出ていったり、そういうことをあまりされないんです。いつも「そんなに言ってくれるなら、郷太頼むわ」みたいな感じで。僕みたいな人間が「はい、錦織一清さんです!」って言わないと腰を上げないシャイなところがあって。今回のポッドキャストもそうですけど、僕が今“紹介役”みたいな形になる場面もあるのですが、それ自体も錦織さんのプロデュースというか。
ーー錦織さんって、トークのときは割と「面白い人」としてしゃべっていますけど、その言葉の端々に出てくる情報の多さというか、古今東西、本当にたくさんのエンターテインメントに精通していて。
西寺:錦織さんって、知識量はもちろん、記憶力もすごいんですよ。台本とかも一発で覚えちゃうんで稽古場で台本を開いたところを見たことがないんですよね。頭の中に全部入っていて。もうひとつすごいなと思うのは、ご自身が舞台演出家であり、ずっとミュージカルなどで踊られてきたこともあるんでしょうけど、役者の立ち位置だったり、舞台空間を立体的に把握する能力が半端ないんです。
ーーというと?
西寺:舞台の稽古って、直前までは何もない平面の床でお芝居をしているじゃないですか。だけど本番では、大掛かりなセットが組まれて。それこそ少年隊は、ステージが飛び出したり引っ込んだり、何層にも分かれて変化する青山劇場のようなところでやってきてますから、何もない稽古場でも演出される段階で全部イメージができているんですよね。この人とこの人は、実は全然高さの違うところにいるとか、舞台の後ろから突然何かが登場するような場面にしても、全部立体的に頭の中に入っている。役者の人たちも、最初は台詞や動きを追うのに精一杯ですから、錦織さんに「〇〇君は、そのあとステージが二段高くなるから」と言われても「えっ?」ってなるようなこともある。本番が近づいて、セットができあがったときに「あ、そういうことだったのか!」と気づくんです。稽古スタートの時点で頭の中に全員の縦横立体の動きが展開されている。ご本人があれだけのスキルを持つダンサーで、自分の立ち位置だったり周りのフォーメーションの動きだったりを考え続けてきた方でもあるので。若い頃から大人数でアクロバットされてきて、誰かとぶつかったりしたことがないとおっしゃってましたが、空間認知力が常人のレベルをはるかに超えているんでしょうね。
演出家にも色んなタイプがあるのかもしれませんが、あれだけ演者として自身が踊れる方はいないでしょうから。だから俳優陣は脅威だと思いますよ。演出家や監督に難しいことを要求されたら「自分でやってみろよ!」とか心で思うこともあるんでしょうけど、錦織さんはジャグリングも格闘技もコメディも歌も踊りも時代劇も、何もかもできちゃいますからね(笑)。
ーー言われてみたら非常に納得できる話ですけど、これまで考えたことがなかったというか……錦織さんは、自分でそういうことを言わないですもんね。
西寺:そうなんですよ。だから、こうして僕があちこちでしゃべりまくっているという(笑)。錦織さんって、山頂に辿り着いたら教えてあげる人というか、下のほうから「見えない、見えない」と言っている人には何も言わず、その山を登って頂上に辿り着いた人がいたら、ニコッと笑って握手する人なんで。
ーーなるほど。「つかこうへいの後継者」と目されている理由が、だんだんわかってきたような気がします。
西寺:そう。つかさんもジャニーさんも、自分のメソッドみたいなものを、ほとんど本や映像で形として残してないじゃないですか。周囲の人が語ることで「伝説化」していくというか。僕みたいな後追い世代がつかこうへいさんの世界を知ろうとすると、深作欣二監督の映画『蒲田行進曲』になるんでしょうが、それも当時の舞台の熱気とは別ものでしょうし。僕は自分で考えたこと、作った音楽などは、本にしたり、レコーディングして作品化したり「形」として残していきたいタイプなので全然違うのですが。だけど、つかさんやジャニーさんや錦織さんは、「これが終わったら次!」みたいな感じで、稽古場や舞台で輝きを放てば、それで終わり、その儚さが美しいみたいなところがあって。
ーーいわゆる「口伝」じゃないですけど、文章とかではなく、面と向かって直接話すことによって、そのメソッドを伝えていくというか。
西寺:まさに「口伝」ですよね。昔ながらの師匠みたいな感じというか。最近あまりつかさんのことが語られなくなったのは、それもあると思うんですよね。当時のインパクトは本当にすごかったとか言われても、やっぱりそれはその時代の舞台を生で観ている人にしかわからないじゃないですか。むしろ、今となっては舞台そのもの以上につかさんの演出風景の映像の方が見たいというか。だけど少年隊の場合は、いろんな動画も残っているし、錦織さんご自身も自分がこれから演出していく世界、演出されている姿そのものも、どんどんオープンにしていきたいと考えられているようです。これからもっといろんな人が錦織さんの巨大な才能によりリーチしやすい時代になっていくんじゃないかと思ってます。
ーーこれからの錦織さんは、ますます面白くなっていくと。
西寺:錦織さんがこれまで何十年も蓄えられてきたものがあるからこそ、これからの可能性が果てしないというか。当時の審美眼ではわからなかったことも、今の目で若い世代が見たらすごみがわかるみたいなこともあるだろうし。そういう意味でも、すごくこれからが楽しみで。そんな錦織さんに『最高!ファンクラブ』の記念すべき第一回のゲストとして出てもらえたのは、僕としてもすごく嬉しいことなんですよね。
■配信情報
『西寺郷太の最高!ファンクラブ』
5月11日(火)15:00よりAmazon Musicにて独占配信
配信はこちら
<今後のエピソード内容>
Ep.1:郷太さんより錦織一清さんに向けて「少年隊」について
配信中
Ep.2:錦織一清さんより「矢沢永吉さん」について
配信日時:5月18日(火)15:00
Ep.3:ミッツマングローブさんより思い入れのあるミュージックテーマについて熱く深く語っていただく予定です。
配信日時:5月25日(火)15:00