堀込高樹と堀込泰行、同時期リリースとなった新作での“個性” KIRINJIソロ体制移行を機に考える
バンド体制から、実質的に堀込高樹のソロプロジェクトへと変わって初となるKIRINJIの新曲「再会」と、堀込泰行3枚目のフルアルバム『FRUITFUL』。近いタイミングでリリースされた両作品について、合わせてレビューしてみてはどうかと編集部より打診いただいた。どのミュージシャンにとっても苦しい1年だった2020年、2人はどう過ごし、どのような楽曲を準備していたのか。それぞれの新曲を聴きながら、いま彼らが目指す先について考えてみようと思う。
編集部から受けたテーマでまず思い出したのは、2020年12月に行われたKIRINJIのバンド体制での最後のライブが行われた会場で、とあるファンの方と交わした雑談だった。その方は、脱退後にソロ活動を続けてきた堀込泰行と、これからソロになる堀込高樹について「2人は8年近くかけて、ようやく同じ地点に立ったのだと思います」と話していて、確かにその通りだと納得したのだった。堀込泰行のキリンジ脱退後、ソロあるいはバンドと活動の形態は異なっていたが、2021年以降は2人とも同じように、個人として音楽を作ることになる。「今後、それぞれのエッセンスがより強く反映された作品が聴けるはずだろうし、これからのリリースを追っていくのがさらに楽しみになりました」と、その方は話してくれた。とてもいい見立てだし、「同じ地点に立った」という表現にファンならではの優しい視点を感じたものだった。
KIRINJI「再会」は、ストレートにコロナの状況を歌詞に織り込んだ1曲である。パンデミックが去り、すべてがかつての日常に戻ったらばどれほどにいいだろう、というシンプルな願いが伝わる〈待ちわびていた/待ちわびていた/この日を〉という歌詞の高揚感が実に素晴らしく、聴き手の心を捉える。どちらかといえば凝った言い回しやアイロニーの多い堀込高樹の歌詞だが、今回、まっすぐな言葉で語られる想いが胸に響いた。ソロプロジェクトのKIRINJIは楽曲ごとにゲストを招くものと予想していたが、「再会」でクレジットされているミュージシャンは、ベースの千ヶ崎学(元KIRINJI)のみ。フィーチャリングする特別ゲストこそいないが、より堀込高樹らしさが伝わるシンプルな再スタートだと好ましく感じた。
ビル・ウィザースの「Lovely Day」をイメージしたという楽曲(※1)は、友人との再会を祝うアップテンポな明るいサウンドでありつつ、誰もがうっすらと予感している、コロナ禍で身動きの取れない状態がどこまでも続いてしまうのではという未来への怖れを思い起こさせる詞の世界が見事だ。歌詞で語られる「再会」が実は夢だったというオチのつけ方や、〈あの頃にはもう戻れないのかも〉の言葉には、終わりの見えないコロナに対する漠然とした不安が感じられ、堀込高樹らしい複雑なニュアンスが生まれる。できれば今後に希望を持ちたいけれど、かつての社会と同じ状態に戻れるのだろうかという人々の苦悩に寄り添う姿勢がある。このタイミングでリリースするのにふさわしく、コンセプトも練られた、KIRINJIらしい新曲であった。