秦 基博に聞く、『おちょやん』主題歌で描いた“人生における泣き笑い” KIRINJIやキャロル・キングら転機になった音楽も明かす
ステイホーム期間中に制作した“AT HOME”シリーズ
ーーカップリング曲についても聞かせてください。「LOVE LETTER (コペルニクス AT HOME)」「アース・コレクション (コペルニクス AT HOME)」は、アルバム『コペルニクス』に収録された「LOVE LETTER」「アース・コレクション」を昨年のステイホーム期間中にリアレンジしたトラックです。
秦:『コペルニクス』のツアーが延期になったときに、ツアーメンバーと「何かやりたいね」という話になって、アルバムの1曲目でもある「LOVE LETTER」をセッションしたんです。まず僕が弾き語りしたものに一人一人、順番に音を重ねてもらって。ツアーでやろうとしていたアレンジを元に制作したのでCD音源には入ってなかったストリングスが加わったり、また新たな雰囲気のアレンジになりましたね。次の人に送るときに動画でメッセージを付けてたんです。それは公になってないので、自分たちしか見てないんですけど。
ーー近況報告も兼ねて?
秦:そうですね。「料理してます」とか、みんなの様子もわかって、良かったですね。
ーーちなみに秦さんは、ステイホーム期間中に始めたことはありますか?
秦:何もやってないです(笑)。曲もそんなに書かなかったし、ときどき来るリモート仕事をやるくらいで。少し体を動かそうと思って、ラジオ体操をやったくらいかな(笑)。それもすぐやめちゃいましたけど。
ーー落ち込むことも張り切ることもなく?
秦:わりとそんな感じです。すごくダウナーだったわけでもないので。
ーーそういうフラットなところ、秦さんらしいと思います(笑)。「アース・コレクション (コペルニクス AT HOME)」については?
秦:「AT HOME」シリーズをもう1曲増やしたいなと思って「アース・コレクション」を選びました。「アース・コレクション」は自分だけで完結させようと思って、他の楽器を使わず、声だけで構成しているんです。
ーー一人アカペラですね。アレンジも自分で?
秦:はい。ハーモニーを含めて、オリジナル音源とは一味違うアレンジにしたくて。自分で歌って、録って、編集して、内職みたいにコツコツやって。楽しかったけど、めちゃくちゃ大変でした(笑)。
ーー「泣き笑いのエピソード」のアレンジもそうですが、秦さん自身、声を使って何ができるか? というところに改めて注目しているのかも。
秦:そうですね。声はオリジナリティのある楽器の一つというか。自分の声は倍音感が強いし、大きな武器になると思ってるんですよね。他の楽器とのバランスもあるけど、コーラスを含めて、「使わないともったいない」という感じです。
ーーそして4曲目には新曲「カサナル」を収録。〈離れ離れ 僕らは 途切れないまま/それぞれ めぐる星も いつか 必ずまた出会える〉という歌詞、いまの状況にぴったりだなと。
秦:特に何かを意識していたわけではないんですけど、“遠く離れた誰か”に対する曲になりましたね。この曲、ストリングスのアレンジでKANさんに参加していただいたんですよ。
ーー弦のラインがすごくメロディアスで、ストリングスが歌ってますよね。
秦:そう、歌う人のメロディですよね。こちらから「1番のサビのところはチェロを入れてほしいです」とお願いしたり、KANさんがヴィオラを足してくれてり、お互いに意見を交換しながら作っていきました。
ーーなるほど。そもそも、どうしてKANさんにお願いすることになったんですか?
秦:KANさんがご自身の曲でアレンジしているストリングスが素敵で、「いつか書いてもらえたらな」と思ってたんです。あと、どっちが先ってわけではないんだけど、KANさんの「キセキ」という曲で僕がギターソロを弾かせてもらってるんですよ。
ーーギターソロだけ?
秦:そうです。さっきも言いましたけど、『コペルニクス』にはエレキギターが全然入ってなくて。アルバムを聴いてくれたKANさんが「素晴らしいアルバムだけど、秦くんちのエレキの気持ちを考えたことはあるのか?」って(笑)。「秦くんのエレキが可哀そうだから、俺の曲で弾け」って言ってくれました(笑)。
(「鱗」は)自分のなかで曲の鮮度が変わらない
ーーここからはAWAのために作ってもらったプレイリストについて。秦さんのオリジナル曲で構成されたプレイリストのテーマは「転機になった曲」。まずは「鱗(うろこ)」。2007年6月リリースのシングル曲です。
秦:この曲によって、秦 基博というものをある程度、認識してもらえたのかなと。「こういう曲を歌う人なんだな」というものを形にできた曲だと思いますね。「鱗(うろこ)」は亀田誠治さんのプロデュース、アレンジなんですけど、弾き語りで作った曲が、ピアノやストリングスなどが加わることで、こんなにも広がるんだなって実感して。すごくキラキラした印象になったし、「サウンドメイクによってこんなにも曲が輝くんだ」と体感したというか。その影響もあって、1stアルバム(『コントラスト』)でもいろいろなアレンジャーの方とご一緒したんですよね。
ーーサウンドメイクにおいても転機になる曲なんですね。
秦:はい。あと、ライブでいちばん歌ってる曲なんですよ、「鱗(うろこ)」は。セットリストからほぼ外れたことはないんじゃないかな。自分のなかで曲の鮮度が変わらないし、歌うたびに、そのときの「鱗(うろこ)」になるんですよ。そういう意味でも貴重な曲ですね。
ーーそして「アイ」は、2010年1月にリリースされた9thシングル。
秦:デビューして4年後くらいにリリースした曲ですね。それまでいろんな作り方を試してきたんですけど、「アイ」という曲と『Documentary』というアルバムによって、自分のスタイルが出来たという感じがあって。
ーー自分のスタイルというと?
秦:「自分にとって普遍性とは?」「ポップスとは?」というところですね。最初は初期衝動というか、自分自身のことを曲にするところから始まって。デビューしてからはリスナーの皆さんの姿がよりはっきりイメージできるようになって、そこからどういう曲を作ればいいんだろう? と悩んだり、色々試行錯誤したりしてたんですが、それを聴衆のなかに求めても、答えはないんじゃないかと思った。そのときに辿り着いたのは、自分のなかに深く潜っていけば、その先に普遍性があるんじゃないかと。「アイ」で言えば、愛に対する個人的な感情がもとになっていて。愛しい誰かを知って、温もりを感じる反面、それを失う怖さを同時に知るっていう。それは自分自身の感覚なんですが、しっかり突き詰めれば、普遍的なところに結びつくことが実感できたんですよね。