秦 基博に聞く、『おちょやん』主題歌で描いた“人生における泣き笑い” KIRINJIやキャロル・キングら転機になった音楽も明かす

秦 基博『おちょやん』主題歌制作秘話

「ひまわりの約束2」を作るつもりはない

ーーなるほど。そして「ひまわりの約束」は2014年8月に発表されたシングル。映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌としてロングヒットを記録しました。

秦:多くの方に聴いてもらえた曲だし、卒業式、結婚式など、自分が想定してなかった場面でも流してもらって。まさに曲が独り歩きしたというか、聴き手のものになったなという感覚をいちばん強く得られた曲ですね。『ドラえもん』の主題歌だったので、お子さんにもわかりやすい言葉で書けたらいいなと思っていたんですけど、楽曲の作り方自体はそれまでと何かを変えたわけではなくて。それも自信になりましたね。あと、いろんな方に歌ってもらえたのも自分にとっては大きな出来事で。自分の曲はそれまでずっと「カラオケで歌いにくい」って苦情めいた意見をもらうこともあったんですけど(笑)、「ひまわりの約束」をたくさんの方が歌ってくれてよかったなと。

ーー「ひまわりの約束」を超えるような曲を作りたい、という気持ちもありますか?

秦:より認知される曲を作りたいという思いはありますが、「ひまわりの約束2」を作るつもりはなくて。「ひまわりの約束」とは違う山に登りたいというのかな。新しいことをやりたいという気持ちが強いですからね。

ーー新曲「泣き笑いのエピソード」も選んでもらってます。新たな代表曲になり得る曲ですよね。

秦:そういう曲になったらいいなと思いますね。ミディアムテンポやバラードではなく、「泣き笑いエピソード」のような軽快な8ビートの曲を「秦 基博の曲」として受け止めてもらえたらなと。

ーー朝ドラの主題歌ということもあって、普段以上にリアクションがあるのでは?

秦:父や母も喜んでくれてますね(笑)。浪花千栄子さんを知っている世代の方も反応してくれてるようで、嬉しいです。

ウルフルズは自分にとってブラックミュージックの入り口

ーーここからは秦さんのルーツになっている曲。「Atlantic City」(ブルース・スプリングスティーン)はアルバム『Nebraska』の収録曲です。

秦:ブルース・スプリングスティーンをすべて聴いているわけではないんですけど、高校の頃、兄が1stアルバムの『アズベリー・パークからの挨拶』を聴いていて、「かっこいいな」と思って。『Nebraska』はほぼ弾き語りのアルバムで、すごく好きだったんですよ。自分はアコギの弾き語りが根っから好きなんだなって実感した作品ですね。特に「Atlantic City」はマイナーコード感がすごくよくて。当時17歳くらいで、周りはメロコアとかを聴いてたんですけど、僕は『Nebraska』をずっと聴いてました(笑)。

ーー渋い17歳ですね! 「So Far Away」(キャロル・キング)も70年代のヒット曲です。

秦:20歳くらいのときに『TAPESTRY』を聴いて、「So Far Away」も大好きになって。この曲を聴きながら駅で電車を待っていたときのことをすごく覚えてるんですよ。ホームから見える川面に夕陽が映っていて、キラキラしてて、「この光景、めちゃくちゃいいな」と思って。普段使っている駅、何度も見ている景色なのに、音楽によってこんなに良く見えるんだって。その頃はもうライブをやりはじめてたんですけど、「自分もこんな曲を書いてみたい」と思いました。

ーー続いては「I Won't Last a Day Without You」(ポール・ウィリアムズ)。Carpentersの曲として知られていますが、あえて歌詞を手がけたポール・ウィリアムズのバージョンですね。

秦:最初に聴いたのはCarpentersなんですよ。中学のときにドラマの影響でリバイバルヒットしていて、ベストアルバムが家にあって。なかでもこの曲がいちばん好きで、ルーツの一つになってますね。ポール・ウィリアムズを知ったのはデビューが決まってから。当時のディレクターに「こういうアーティストを聴いてみたら?」といろいろ教えてもらったんですけど、そのなかにポール・ウィリアムズもあって。聴いてみたら「I Won't Last a Day Without You」や「We've Only Just Begun」(どちらもポール・ウィリアムズが作詞)が入っていて、すごくいいなと。このバージョンもいいんですよ。16ビートが効いていて、泣いているような、憂いのある声がいいなって。

ーー「Stay」(Lisa Loeb & Nine Stories)は1995年のアルバム『Tails』の収録曲です。

秦:初めてリアルタイムで好きになった洋楽ですね。高校のときだったんですけど、それまでは基本的に邦楽ばっかり聴いていて。Lisa LoebのMVがテレビで流れていて、すぐにCDを買いました。『Tails』、死ぬほど聴きましたね。

ーー当時も大ヒットしましたが、タイムレスな名盤ですよね。

秦:色褪せないですね。イントロのアコギ、何回聴いてもキュンとできますから(笑)。ステイホーム期間中にリサ・ローブが自宅から配信してたんですけど、全然変わってなくて、すごく良かったです。

ーーここからは邦楽です。まずは「グッデイ・グッバイ」(KIRINJI)。

秦:『3』というアルバムがめちゃくちゃ好きで、そのオープニングの曲ですね。「エイリアンズ」「千年紀末に降る雪は」も入ってるんですけど、サウンドも歌詞も本当にすごくて。弾き語りや引き算したサウンドも好きなんですけど、KIRINJIのように構築されたポップスも大好きで。プロフェッショナルが集まった、名盤中の名盤ですね。

ーー「ワンダフル・ワールド」(ウルフルズ)は、サム・クックの名曲の日本語カバー。

秦:サム・クックの曲を知らなくて、この曲を先に聴いたんですけど、トータス松本さん、ウルフルズは自分にとってブラックミュージックの入り口なんです。トータスさんの『TRAVELLER』(カバーアルバム)も聴いて、「こういう歌いまわし、聴いたことない」と思って。そこからですね、サム・クックやダニー・ハサウェイなどのブラックミュージックを聴くようになったのは。

ーーそして「いつのまにか少女は」(井上陽水)は、1973年のシングル『夢の中へ』のB面曲。このセレクトも渋いですね。

秦:陽水さんの『断絶』と『氷の世界』のCDが家にあって、弾き語り好き少年だった時期に聴いてたんです。「いつのまにか少女は」は何とも言えないノスタルジーがあって。〈君は静かに 音もたてずに 大人になった〉という歌詞もそうですけど、少女が変わっていく様、何かを失って成長していく描写が素晴らしくて。よく意味もわからず、勝手に切なくなって弾き語りしてました(笑)。

ーー「ピアノガール」(くるり)はピアノの弾き語りの曲。

秦:この曲が入ってる『図鑑』もめちゃくちゃ聴いたアルバムで。バンドサウンドの曲のなかで、「ピアノガール」だけピアノ弾き語りなんですよね。歌詞もすごいんですよ。〈人だって平気で刺すかも〉もそうですけど、曲の全体の雰囲気からは思いもよらない言葉があって。感情を揺さぶられますね。

ーー最後に2021年の展望について聞かせてもらえますか?

秦:「泣き笑いのエピソード」からはじまって、春に弾き語りアルバム『evergreen2』をリリースする予定です。状況を見ながらですが、15周年の節目でもあるしライブもいい形でやりたいですね。

24th Single「泣き笑いのエピソード」
24th Single「泣き笑いのエピソード」

■リリース情報
24th Single「泣き笑いのエピソード」
通常盤(CD)UMCA-50059:¥1,200(+税)
初回限定盤(CD+DVD)UMCA-59060:¥2,900(+税)
三方背スリーブケース仕様

-CD-
泣き笑いのエピソード
LOVE LETTER (コペルニクス AT HOME)
アース・コレクション (コペルニクス AT HOME)
カサナル
泣き笑いのエピソード (backing track)

-DVD- 初回限定盤のみ
Hata Motohiro Live at F.A.D YOKOHAMA 2020
・シンクロ
・フォーエバーソング
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・恋の奴隷
・Lost
・在る
・Raspberry Lover
・9inch Space Ship
・スミレ
・ひまわりの約束
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・朝が来る前に
・Interview & Bonus Track「トラノコ」

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