星歴13夜が作り出す“音楽を分かち合う大切な空間” ソロパフォーマンスも充実した『NanoDayBreaChronicle』レポート

 1月3日、星歴13夜がヒューリックホール東京にて、自身最大規模の単独公演『NanoDayBreaChronicle』を開催した。2020年、世界は大きく変わった。特に音楽業界は、ライブができないという大打撃を追うことに。ライブは、アーティストとファンが幸せな時を共有する大切な空間だ。

 そんななか、星歴13夜は状況を鑑みて無観客のオンラインライブを開催。そして、今回徹底した感染拡大防止対策を行った上での無歓声ライブに挑戦した。1席ずつ空けての販売となり、収益は半減している。コールや客席での会話も極力控えるようにとアナウンスが流れる厳重体制だ。そんな主催者側の努力に加えて、ファンたちの協力がなければ実現しない無歓声ライブに、正直「どれほど楽しめるのだろうか」という懸念もあったが、その不安は開演と同時に一気に吹き飛んだ。

“ちきゅうぼし”には、どこかわからなくなっちゃう世界線が必要だ

プルルルル、プルルルル、プルルルル……
「もしもし」……「“さみしい夜にささやき座”から“ちきゅうぼし”」……

 開演時間になると、会場には電子的なSEが聞こえてくる。耳をすますと、星歴13夜のメンバーがいる5星群「さみしい夜にささやき座」「ほっとみるく座」「おねしょ座」「未明わるいこ座」「あまおと座」から、私たちのいる「ちきゅうぼし」に交信している声だった。

 その声に合わせて、色とわ、浮あかね、天まうる、寝こもち、園ほまれが順番にステージに登場。5人が揃うと一斉に腕を高く突き上げ、「ヨクトアステリズム」のイントロが流れ出す。ハイエナジーなサウンドに、リーダー・園ほまれの愛らしい舌足らずな「HYULIC HALL TOKYO、盛り上がっていっちゃうぞー!」の煽りが、まさに甘辛MIXでカッコいい。

 通常ならば客席から声援が湧き上がるところだが、観客は精いっぱいペンライトを掲げて煽りに応えていく。ディスタンスが取られた客席は寂しいどころか、むしろそののびのびとしたスペースで、手の振りを楽しむファンが続出。声の代わりに、動きで応援する気持ちを伝えていく。その会場の揺れを感じたメンバーのパフォーマンスにも力が入るのを見て取れた。

 背中合わせになって、それぞれの星座にちなみ〈あまおとは激しく〉〈わるい子は誇らしく〉〈ほっとみるく飲んで、膝から崩れ落ちた〉〈ささやくわ、耳元で聴こえるよ〉とクールに歌い上げたかと思えば、〈あ、朝。おねしょ…夢だ…まぼろし…〉と天まうるのキュートなパートが飛び出す、緩急のついた歌詞の世界観がたまらない。

 余韻に浸る間もなく、パラパラソング特有のユーロビートが鳴り響く。2曲目は、浮あかねをイメージして制作されたという「愛し泡沫ト」だ。キレのあるメンバーの振りに、客席も合わせて踊る姿にこちらまで頬が緩む。そして、腹の底から突き抜けるような音響はライブ会場ならではの醍醐味。オンラインライブにはないリアルライブならではの高揚感が、会場全体を包み込む。

 やはりこの“ちきゅうぼし”には、音楽ライブが必要なのだ。ライブは、アーティストにとって自身を成長させる最前線であり、ファンにとっては厳しい現実から少しだけ離れることができる並行した世界線。たとえ今は声を上げられないとしても、星歴13夜もファンも懸命にこの空間を守るべく必死だ。その愛情が相まって、このライブをよりエモーショナルなものへと磨き上げていく。

5人の“これから”が、ますます楽しみになるソロコーナー

 今回のライブでは、「268019」「Vanilla Drops」「Night Merry」「Romantic Escape」など5人で歌う楽曲をはさみながら、「Lost One(浮あかねソロ)」「Dear Metaphor(天まうるソロ)」「箱庭(色とわソロ)」「I'll treasure this(寝こもちソロ)」「Good Night little Twinkle(園ほまれソロ)」と順にメンバーのソロコーナーも組み込まれていた。

 浮あかねはイエロー、天まうるはピンク、色とわはレッド、寝こもちはグリーン、園ほまれはブルーと、メンバーカラーに染まるステージ。もちろん客席にいるファンたちもその色に合わせてペンライトを点灯させ一緒に、その世界観を作っていく。

 浮あかねの強みは、その感情豊かな表現力だ。彼女の場合は歌を歌うというよりも、言葉を届けたいと願ったら歌っていたというほうがしっくりくるほど、歌詞に想いを載せて届けてくれる。「Lost One」ではステージの中央にペタンと座り込み、切ない表情を浮かべて歌う。その姿は、まるで舞台を見ているかのように物語性を感じさせ観客の心を奮わせる。

 天まうるの魅力は、丁寧なパフォーマンス。その動きは「舞う」という言い回しがぴったりだ。手を広げたときの動きがもっとも特徴的で、誰よりもまっすぐ遠くに指先を伸ばして大きく踊る。「Dear Metaphor」では和のテイストを感じさせる振り付けと天まうるの伸びやかな舞いがマッチ。この曲が彼女の成長と共に見応えを増していく、そんな予感をさせた。

 色とわのステージは、いつでも器用に立ち振る舞う頼れるイメージと、その内面にある繊細な部分とが具現化された、まさに「箱庭」。ガラスが割れるような破壊音や心臓の鼓動を彷彿とさせる重低音に合わせて歌うシーンは、リズム感が必要とされるところだが、ブレることなく歌い続ける色とわにますます頼もしさを感じた。彼女の持つバランス感覚が研ぎ澄まされていくほど、この曲の重みも増していくに違いない。

 寝こもちのステージ映えには、計り知れないポテンシャルを感じる。体をスイングさせる動きだけ見ても、肩がクッと入って可愛らしさが増す。そうした一つひとつが積み重なって、小さい体から信じられないくらい大きな存在感を放っていく。それはアイドルが見せてくれるある種の奇跡だ。「I'll treasure this」を歌う彼女は、蝶のように羽ばたく振りが印象的で、ここから大きな空へと飛び立つ覚悟のようにも見えた。

 そして、リーダー・園ほまれ。かつてリーダーといえばワンマンタイプがなるものだというお約束だった。だが星歴13夜のリーダーは、自ら「ポンコツ」と称する謙虚ぶり。完璧じゃないからこそ愛しい。それゆえに、誰もが手を差し伸べて協力せずにはいられない求心力を持つ新時代のリーダー像。「Good Night little Twinkle」でもその雰囲気は健在で、フリフリと踊る園ほまれを、目で追わずにはいられなかった。

 成長していく過程に携われるということ。それが、今後さらに大きくなっていく彼女たちを応援する醍醐味だ。ソロコーナーでは現時点での等身大の彼女たちを示すことで、“これから”を一緒に見届けることができる楽しみをくれる時間となった。

関連記事