Four Tet、Arca、Charles Webster、Slick Shoota、Eccy……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選
MJ Guider『Sour Cherry Bell』
ニュー・オリンズを拠点に活動するプロデューサー、メリッサ・ギヨン(Melissa Guion)のプロジェクト、MJ・ギルダー(MJ Guider)の4年ぶり新作『Sour Cherry Bell』(Kranky)。ティム・ヘッカーやグルーパーなどで知られるシカゴの名門<Kranky>からのリリースです。シューゲイズ、アンビエント〜ドローン、ゴシックなどの要素を併せ持ったノイジーなエレクトロニカをやっています。前作よりも音が分厚くなり、My Bloody ValentineとCocteau Twinsが悪魔合体してインダストリアルノイズにまみれたような、特異な音像が印象的なダークエクスペリメンタルポップに仕上がっています。できるだけ大音量で浴びるように聴けば、簡単に現実逃避できそう。
The Vision『The Vision』
英国のベン・ウェストビーチとKONことクリスチャン・テイラーのユニットがThe Vision。同名の1stアルバム『The Vision』がUKハウスの名門<Defected Records>からリリースされました。オールドスクールなディスコ〜ソウル〜AOR〜ファンクからディープハウスまで自在にミックスした、かつてのMasters At Workばりの優雅で洗練された歌ものダンスミュージックです。ジャイルス・ピーターソンからジョー・クラウゼルまで、さまざまな有名DJがヘビーローテーションしているのも納得の高い完成度の楽曲が並び、フロアユースとしても鑑賞用としても最適。部屋を温かくしてお酒でも飲みながらリラックスして聴きましょう。
Charles Webster『Decision Time』
その<Defected Records>や<Peacefrog Records>といったレーベルを舞台に長年活動を続けてきたUKの大ベテラン、チャールズ・ウェブスター(Charles Webster)の、なんと約20年ぶりの新作が『Decision Time』(Dimensions Recordings) 。Massive Attackとの共演で知られるシャラ・ネルソン、マドンナの「Justify My Love」をレニー・クラヴィッツと共作したことで知られ、プリンスの<Paisley Park>からアルバムを出したこともある、メキシコ系シンガーのイングリッド・シャベイズなどが参加した、ディープかつ奥行きのあるオーガニックなディープハウス〜ダウンテンポ集です。アゲることを意識しない抑制されたビートと甘さ控えめの歌メロ、優雅で美しいアレンジなど、昨日今日出てきた若造には到底真似のできないような渋いオトナの音楽です。素晴らしい。
Robert Hood『Mirror Man』
こちらはデトロイトテクノの大ベテラン、ロバート・フッド(Robert Hood)の新作『Mirror Man』(Rekids)。黒光りするファンキーミニマルテクノの切れ味鋭いビートに、衰えはまったく感じられません。ここのところダンスミュージックとしてのテクノはすっかり12インチシングルとデジタルデータが中心となってしまい、アルバム単位でのリリースは数えるほどしかなかっただけに、このベテランの旺盛な創作意欲と溢れ出る若々しいエネルギーには脱帽せざるをえません。フロアを揺るがすパワフルなダンストラックだけでなく、アルバムとしても緻密に構成された見事な傑作です。久々にテクノらしいテクノを聴きました。
Eccy『Nutrients』
最後に、日本のビートメイカー・Eccyの3年10カ月ぶりのニューアルバム『Nutrients』(Edulis)。彼が去年設立した自主レーベルからのリリースで、ゲストは一切なし、トラックメイクからミックス、マスタリングまで、ジャケットデザイン以外のすべてをEccyひとりで手がけた、文字通りのワンマンアルバムです。
彼にとって原点とも言えるサンプリングを中心に作られた作品で、マッドリブやフライング・ロータスなどLAのビートシーンとの共振を感じさせながらも、メロウでメランコリックでシネマティックな叙情が漂う、秀逸なインストヒップホップアルバムに仕上がっています。どこかヨーロッパの香りが漂うサンプリングセンスが抜群のロービーツ集ですね。
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■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter