ジャスティン・ビーバーが“世界最大のポップアイコン”であることを証明した夜 代表曲から新曲まで網羅した年越しライブを観て

 以前に執筆した記事でも書いた通り(参照)、現代のポップカルチャーにおける最大のアイコンであるジャスティン・ビーバーは、2020年の秋、自身にとって“new era(=新たな時代)”を迎えたことを宣言している。その幕開けを飾る楽曲とジャスティン・ビーバーが“世界最大のポップアイコン”であることを証明した夜 代表曲から新曲まで網羅した年越しライブを観てして発表されたのが、「Holy」と「Lonely」だ。「Holy」では妻であるヘイリー・ビーバーへの尽きることのない愛情とそこから生まれる安心感を、「Lonely」では幼くして巨大なポップアイコンになってしまったことで感じていた果てしない孤独をそれぞれ歌い、この対照的な2曲を通してジャスティンは自分自身のビジョンや立ち位置を改めて整理していたのだ。

 これまでのキャリアにおいて、彼はずっと自らに取り憑いてしまった「世界最大のポップアイコン」という呪いから逃れようとしていた。ゴシップ誌を賑わせた様々な悪行、ドラッグへの依存といったネガティブな出来事の数々はその象徴でもある。一時はそんな呪いから抜け出したかのように思えたが、後に再び精神的に厳しい状況に追い込まれたジャスティンは、アルバム『Purpose』に伴う世界ツアー中の2017年7月、突如残りの全公演をキャンセルしてしまう。

 あれから3年以上が経ち、ヘイリー・ビーバーと出会い、自らの信仰と向き合い、周りの手厚いサポートに助けられながら呪いを浄化していった彼は、遂に再びフルセットのライブを披露することを決意する。それが、現地時間2020年12月31日に行われたオンラインライブ『T Mobile Presents: New Year’s Eve Live with Justin Bieber』である。

 オンラインライブにおいて、様々なアーティストが創意工夫を凝らしてきたことを踏まえると、今回のジャスティンのコンサートは極めてオーソドックスな内容だったと言えるだろう。とはいえ、会場である世界最高クラスのホテル(The Beverly Hilton Hotel)内に設けられたステージセットは、なかなかに奇妙で印象的な作りとなっていた。客席はフロアではなく、各ホテルの客室がそのまま活用されており、観客はバルコニーからステージを見下ろすようにしてジャスティンのパフォーマンスを楽しんでいた。その中には、彼の大ファンであることを公言しており、今や兄妹のような関係性となったビリー・アイリッシュと、ビリーの兄・フィニアスの姿もあった。ある意味では、この「見下ろされる」という構造自体が、彼のポップアイコンとしての姿を表現したものと言えるかもしれない。

 同ライブの記念すべき1曲目は、彼の最新アルバム『Changes』のオープニングを飾るソフトなR&Bナンバー「All Around Me」。音源では最小限の演奏の中で、丁寧に言葉の一つひとつを確かめるよう歌っていたが、バンドを交えた今回のパフォーマンスでは元の良さを残しつつ、ギターソロや力強いドラムが壮大に会場を盛り上げ、ジャスティンも呼応するように原曲よりも遥かに力強くエモーショナルに歌い上げていく。彼の最大の魅力でもある、その歌声の素晴らしさを改めて実感する。

 続く「Sorry」ではパフォーマーと共に踊りながら楽曲を披露する。今回のパフォーマンスはほとんど生歌だったため、踊ることで音程が乱れる場面も見られたが、彼の表情は以前よりも遥かにリラックスしており、踊ること自体をとにかく楽しんでいるように見えた(楽しみすぎたのか歌詞を忘れて「I forget the words.」と言っていたのも微笑ましい)。心なしかバンドやパフォーマーたちも「正しさ」より「楽しさ」が上回っているように見える場面が多く、それが今回のパフォーマンス全体の特徴でもある、極めてポジティブなムードを作り上げていた。まさに年越しにふさわしい祝祭感がそこにはあった。

 そして遂にやってきた年越しの瞬間。カウントダウンは自身の楽曲ではなく、なぜかInternet Moneyの「Lemonade」を流しながらシャンパンを開けるという非常にゆるいものだった。だが、さらに驚かされたのが「2021年は去年よりもっと良い年になるだろう。もしかしたら2020年はビジョンをクリアにする年だったのかもしれないね」と語った後、新年を飾る最初の楽曲として「Boyfriend」、そして「Baby」というキャリア初期の代表曲が披露されたのだ。ダンスパートでは目を見開いておどけたりしながら、キレのあるダンスを披露し、歌い上げる部分では成長した歌声をしっかりと聞かせる。正直、これまでは半ば義務であるかのように披露される場面もあったが、この日の彼は明らかに自身の「呪い」を象徴する同楽曲らを楽しそうに歌い踊っていた。そのまま近年の代表作である「I’m The One」「No Brainer」を披露。その姿は、彼が遂に自身の「役割」を受け入れ、初期のアイドル的な楽曲から現在のクリエイティビティを反映した楽曲まで、その全てを自分だけが提供出来るエンターテインメントであると正面から向き合っているように見えた。

 だからこそ、現在の彼の代表曲である「What Do You Mean?」や「Yummy」、アコースティックで披露された「Love Yourself」、そして「Holy」といった楽曲のパフォーマンスにおいても、全てがこれまでになくポジティブなエネルギーで溢れており、結果としてコンサート全体のポップとしての強度をさらに高めていたのである。この辺りで、今のジャスティン・ビーバーは間違いなくキャリアにおける絶頂期を迎えているという想いを抱くようになった。

 それが確信に変わったのが、「この曲は特に自分にとって特別な曲なんだ」と語り、共に楽曲を作り上げた会場内のフィニアスに感謝を送って始めた「Lonely」である。シンプルな照明の中でスタンドマイクを手に取り、ほぼ原曲通りの演奏で披露された本楽曲におけるジャスティンの歌声は、歌詞の一行一行に込められた苦しい感情をより増幅させ、極めて辛く、だがあまりにも美しいものだった。間違いなく今回のコンサートにおけるハイライトと断言して良いだろう。自身の辛い過去を、ここまで美しい音楽として完成させ、そして素晴らしいパフォーマンスを生で披露することが出来た。これこそが現在のジャスティンにおける最も大きな変化、そして進化であり、だからこそ、彼は自分の役割を引き受けることが出来るようになったのだろう。