高橋美穂が選ぶ、2020年邦楽バンド年間ベスト10 Hi-STANDARD、BRAHMANらライブバンドから届けられた傑作たち
My Hair is Bad『life』
SUPER BEAVER『突破口 / 自慢になりたい』
BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)『CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE』
ストレイテナー『Applause』
MONOEYES『Between the Black and Gray』
Ken Yokoyama『Bored? Yeah, Me Too』
WANIMA『Cheddar Flavor』
銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ』
G-FREAK FACTORY『VINTAGE』
Hi-STANDARD『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』
コロナ禍となった2020年。音楽の聴き方も変わったと思う。たとえば、シーン全体の流行に関係なく、リスナーの一人ひとりがジャッジして音楽を聴く傾向が高まったのではないだろうか。“みんな”の表情を見ながら何かを楽しむことが難しく、SNSでも十人十色の情報が飛び交う今、自分自身の感覚を信じるしかない局面が多く、結果的に大事なものが浮き彫りになった人は、少なくないと思う。わかりやすく言ってしまうと「時代がどうであろうと、誰が何と言おうと、私はこれが好き!」みたいな。私自身、そういう考え方に拍車がかかったところがあって、思いっきり個人的に振り切った年間ベストは、他の媒体で執筆した。
そこで今回は、ひとつのテーマに絞って、年間ベストを選出する。スポットを当てるのは、コロナ禍以降にリリースされたライブバンドの新作だ。ライブを行うことが難しかった春以降。しかし、ライブを大切にしているバンドの傑作は多かった。そこに感じた様々な理由を解き明かしながら、10枚の作品をピックアップしていきたい。なお、順不同です。
まず、楽曲で2020年を見事に表現しているように感じたのは、My Hair is Badの「白春夢」。シングル『life』の収録曲で、12月リリースであるところも総括感に拍車をかけている。色や風景、感触を鮮やかに描きながら、生活に溶け合う温度感で、腑に落ちない今を腑に落としてくれるような、アートにしか生み出せない感覚。〈夢から覚めても まだ夢の中で見てた 白春夢〉という美しいラインからは、椎木知仁が詩人として階段をのぼったことを確信できる。ライブが止まっても、足踏みせずに果敢に創作で前進を続けた証がここにある。
また、シングルではSUPER BEAVERの『突破口 / 自慢になりたい』も響いた。「突破口」はタイトルからして今、求められているものだ。そして「自慢になりたい」は、コロナ禍で様々な決断に迫られる人を肯定するように聴こえるーー〈寂しさは 愛しさで 歓びを 望む理由〉〈ああ 寂しくて 良いのさ〉。個人的には、親から子どもに伝えたいメッセージにもなり得ると思った。今まで彼らの楽曲は、彼らの物語として聴いていたけれど、この楽曲は年齢も生き方も違う私が自分自身を重ねられる。目の前のあなたを大切に、つまりライブを大切にしてきたバンドの歩みが、幅広いあなたに向き合う歌となって実を結んだのだ。
さらに、直接的に2020年を取り上げたシングルといえば、BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)の『CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE』。パンクやヒップホップの指す“現場”とはライブだけではない、社会そのものなのだ。「CLUSTER BLASTER」のメッセージには痛みを感じたし、「BACK TO LIFE」を聴いて帰れない故郷や会えない友人を思った。行動のきっかけを生むパンクやヒップホップの存在を轟かせた1枚。
続いて、アルバムで2020年を総括しているように感じたものを挙げると、まずはストレイテナーの『Applause』。今作も12月リリースだ。しかもタイトルの意味は、“拍手”である。少しずつライブが開催されている今も、新型コロナウイルス感染拡大予防のために、会場で発声ーー歓声をあげたりシンガロングする、今までのライブで当たり前に行われていたことーーはできない。客席からステージに送られる賛辞は“拍手”だ。今作はそれがタイトルとなっており、彼らが客席、すなわちリスナーをしっかり見ていることがわかる。楽曲にも、何年か後、2020年を象徴する1枚として語られそうな、リアルな感情と風景が刻まれている。
そして、MONOEYESの『Between the Black and Gray』。彼らが始動した時のイメージにあった“フットワーク軽くライブを行う”ことが、今となっては尊いものに感じられるし、その日々を重ねてきたからこそ、言葉も音もズシリと響く傑作が完成したのだろう。しかも今作は、コロナ禍で時間があったからこそ、じっくりと練り上げることができたのだと思う。百戦錬磨のライブバンドでありながら、とことん制作も細やかに突き詰める、彼らの根っこが露わになったのではないだろうか。どちらもできるバンドは強い、そう改めて思う。