高橋美穂が選ぶ、2020年邦楽バンド年間ベスト10 Hi-STANDARD、BRAHMANらライブバンドから届けられた傑作たち

Ken Yokoyama
Ken Yokoyama『Bored? Yeah, Me Too』

 Ken Yokoyamaの『Bored? Yeah, Me Too』も、一曲一曲のクオリティがハンパなく、これまたコロナ禍で制作に時間をたっぷりかけられたことが影響していると思われる。横山健は、その存在やライブがフォーカスされがちだが、何よりも優れたソングライターなのだという事実に改めて気づかされるのだ。しかも、今作は2019年秋に体調不良で休養してから、ほぼ音沙汰がなかった彼からの復帰報告でもある。心が疲弊している最中にパンクヒーローが帰ってきてくれた! と思える頼もしいメッセージ、そして松本英二(Dr)が参加してパワフルになったサウンド。やはり、いざという時に彼はキッズを奮い立たせてくれる。

 コロナ禍という逆境をバネにして新鮮なスタイルを提示した作品と言えば、WANIMAの『Cheddar Flavor』。ZOZOマリンスタジアムでの無観客ライブで、翌日にリリースすることをサプライズ発表したのだ。先が見えない今、画面の向こうからその手で差し出された嬉しいサプライズは、代えがたい光となった。そして内容そのものも、彼ららしい明るさのみならず、強い決意に満ちたものだったのだ。ライブのMCでも語られた“誰かに歌うな、自分に歌え”という今作のテーマは、今を生きる一人ひとりにとっても指針になると思う。

 リリースそのものがメッセージのように感じられたのは、銀杏BOYZの『ねえみんな大好きだよ』。ライブも表現も密そのもの、しかも寡作なバンドが、2020年にアルバムを出したのだから。「大人全滅」の〈You Have Your Punk I Have Mine〉という一言は、それこそ冒頭に書いたような“自分自身の感覚を信じるしかない”状況下で心に刺さった。

 ここまで書いてきて思うけれど、コロナ禍はバンド(や人)の本質をあらわにするところもあるのではないか。それこそ、コロナ禍でフォーカスされるようになったローカルを、これまでも大切にしてきたG-FREAK FACTORYの『VINTAGE』も、聴けば聴くほど味わい深い。これからの時代をどう生きていくか? という提示としても受け止めることができた。

 最後に、やっぱりライブが恋しいよ! ということで、Hi-STANDARDの『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』。緊急事態宣言が発令されたばかりのタイミングで配信されたライブ盤だ。私は、ステイホーム中に今作をむさぼるように聴き、ライブからもらえる力は偉大であることを身に染みて感じた。現在、PIZZA OF DEATHが一発録りの無観客ライブ盤『BECAUSE IT’S 2020』の9バンド連続リリース企画を行っているが、ライブ盤は今こそ再評価されるべきだと思う。バンドが発表するべき大切な“作品”であるライブがパッケージされているのだから。

 これらの作品を、もちろんコロナ禍を意識せずにリリースしたバンドもいるだろう。しかし、“コロナ禍の耳”で聴いたのは、私だけではないはず。また、コロナ禍の影響を受けた作品は、これから増えてくると思う。どんな楽曲が生まれ、どんなライブが行われるのかーーまだ見えないことは多いが、オーディエンスと対峙し、ライブハウスで生き抜いてきたバンドは強いということ。そして、音楽はこういう時こそ心を救うということ。それだけは確かだ。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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