BTS、「Dynamite」「Life Goes On」など複数バージョン公開の背景 狙うは米ビルボードでの上位チャートインロングラン

BTS『BE (Deluxe Edition)』

 BTSが12月11日、「Dynamite」の新たなリミックスバージョン“Holiday Remix”を公開した。「Holiday」のタイトル通りクリスマスシーズンらしい温かみと華やかなクワイア感のある、原曲とは異なった味わいのあるバージョンだ。11月20日にリリースされたアルバム『BE (Deluxe Edition)』のリード曲である「Life Goes On」も4種類のMVを公開し、一曲をなるべく長く楽しめるようなバージョン違いを「Dynamite」以降特に多くリリースするようになった。

BTS (방탄소년단) Sing 'Dynamite' with me (Holiday Remix)

 このような活動スタイルの変化の背景には、アメリカのBillboardチャートの集計システムが少なからず関係していると思われる。現在のBillboard HOT100のチャート集計方式では「リミックスバージョン」もリミックス元の曲に合算されるため、リミックスを出すことはアメリカのトップクラスのアーティスト達もよく使うプロモーション方法のひとつとして知られている。1990年代後半から現れはじめた手法で、1996年にはスペイン語曲の「Macarena」(ロス・デル・リオ)が、英語歌詞を織り込んだリミックスをリリースしたことで非英語詞の楽曲としては初となる14週HOT100の1位という記録を打ち立てた。同じく非英語詞の曲として大ヒットしたルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「Despacito」は2017年1月の初リリース時はHOT100の88位、その後44位まで上がったが(参照)、4月にジャスティン・ビーバーをフィーチャーしたリミックスバージョンをリリースした翌週には9位まで跳ね上がり(参照)、最終的に16週もの間HOT100の1位に輝いて21年ぶりに「Macarena」の記録を破ることとなった。2018年10月にリリースされたトラヴィス・スコットの「Sicko Mode」は2週連続で2位が続き、7週間1位をキープし続けていたアリアナ・グランデの「thank u, next」を超えることが出来なかったが、11月にSkrillexによるリミックスバージョンをリリースしたことで念願の1位に上がり、「Love to Skrillex!」というメッセージを残していた。2019年に19週間HOT100の1位というBillboardのロングラン記録を更新したLil NasXの「Old Town Road」の場合、リミックスバージョンなしでもHOT100の1位にはなっていたが、ロングラン記録を打ち立てることが出来たのは時期をずらしてリリースされた6種類のリミックスの後押しもあったようだ(参照:VICE)。

 このように、HOT100のTOP10にチャートインが確実なトップアーティストであれば、「あとひと押し」が欲しい時やロングランでのチャートインを狙う場合に使ったことがないアーティストはいないであろうというレベルで、アメリカの音楽業界では定着している手法と言えるだろう。BTSは過去のアルバムのリード曲でも1・2曲程度リミックスやバージョン違いを出した経験はあり、HOT100ではシングルよりは不利になりがちなアルバムのリード曲でもすでに常時TOP10入りしていた。その基盤がある上で今回はより高い順位が狙いやすいシングルリリースであること、ラジオプレイでも有利な英語歌詞の曲であることなど、トップを狙うためのアメリカの事情に合わせた綿密な計画の一環としての「リミックスバージョン」という意味もあるのだろう。

 2週連続1位を取った初週・第2週を振り返ると、インストバージョンと合わせた本曲をリリースした3日後の8月24日にEDM・アコースティックの2バージョンをリリースし、さらに翌週分の集計が始まる金曜日の8月28日に新たにTropical・Pool Sideの2バージョンを追加している。9月18日には追加で4バージョン(Slow Jam・Retro・Midnight・Bedroom)をリリースし、先述のHolidayバージョンと合わせて11種類のリミックスと共に、過去最長期間の連続チャートインをキープし続けている。特に12月のクリスマスシーズンはマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」やWham!「Last Christmas」のような定番ソングが上位にチャートインしてくるため、Billboardもこの期間特別ルールを設定しているような時期である。この時期にクリスマスシーズンらしいリミックスを出すということは、ファンサービス的にも「アメリカらしい」やり方と言えるのではないだろうか。「Dynamite」はBillboardダウンロードチャートの2020の年間第1位だが、トータルでの年間順位は38位だった。2014年〜2019年の間で年間DL1位だった曲は全てトータルでの年間順位が1位か2位だったことを踏まえると、過去のTOP10曲の中でも「Dynamite」は全体のチャートポイントの割合のうちでDLが有意に多い楽曲となる。DLの割合が多いということは「音源をきちんと購入するファン」が多いアーティストということでもあり、そのような特性への信頼を前提としたやり方でもあるのだろう。

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