アンジュルム、船木結への愛が充満した日本武道館 卒業コンサートから感じたメンバーの思い
メンバーにもファンにもスタッフにも「愛し愛された人」という印象を強く残して、船木結はステージから去った。2020年12月9日、日本武道館にて開催された『アンジュルムコンサート2020 〜起承転結〜船木結卒業スペシャル』をもって、船木結は同グループおよびハロー!プロジェクトを卒業。卒業を発表して1年、2度の延期を経てやっと迎えることができた卒業コンサートは、メンバーやスタッフの気合いを十分に感じられるものだった。
船木がモーニング娘。の12期オーディションを受け、後にハロプロ研修生として加入したのは2013年のこと。弱冠11歳だった。2015年、プレイングマネージャー嗣永桃子率いるカントリー・ガールズの新メンバーに選ばれ、2017年アンジュルムに籍を移し、カントリー・ガールズと兼任する形で活動。異例の事態にも、彼女らしく元気に可愛く約7年間を送ってきた。身長148㎝という小ささも武器に変えてしまえる圧倒的なパフォーマンス力。ももちイズムを引き継ぐ、キャラ立ちばっちりのバラエティ能力。卒なくこなすというよりも、努力を惜しまない真面目さが垣間見え、歌、ダンス、トークともにアイドルとして完成度が高かった。
船木は、アンジュルムと兼任が決まった当初、こんなことを話していた。「アンジュルムは自由、というイメージ。対してカントリー・ガールズは王道。全然違うふたつのグループが重なったら、最強じゃないですか。私も最強になれると思うんです」。対照的だが愛情深いふたつのグループに所属したことは、並々ならぬ苦労もあっただろうが、船木の表現力を大きく広げた。もともとポテンシャルが高かった彼女がもがき、悩みながらも手に入れたものの偉大さを思い知る卒業コンサートだったように思う。
中央に配置されたのは、360度ステージ。全方向に観客席があり、四方向へ花道がのびている。リーダーの竹内朱莉がブログで「毎日頭をフル回転させて(リハーサルを)頑張った」と語るように、久しぶりの観客を入れたコンサートにしては難易度の高いステージングで、振り付けやフォーメーションもこれまでと異なっていた。緑と黄色のペンライトが輝く観客席、新型コロナウイルス対策として声援を送ることが禁止されていたため、開演と同時に贈られた拍手の大きさには震えるものがあった。新メンバーを除く8人が、赤い衣装に身を包んで登場。「I 無双 Strong!」「赤いイヤホン」「ミラー・ミラー」「次々続々」と、アンジュルムのカッコよさが際立つ力強いナンバーが続く。「全然起き上がれないSUNDAY」、「忘れてあげる」、「ミステリーナイト!」など大人っぽい楽曲では彼女たちが得意とするダンスのしなやかさ、クールさに磨きがかかり、自粛期間中に個々人が向き合ってきた軌跡をみせられているようだった。恋する女の子の深い愛情が伝わる「私の心」。珍しく、ライブスタート時から声を震わせていた上國料萌衣が歌う〈「好きよ 大好きだよ」〉からはじまり、メンバーの船木への思いがパフォーマンスからはみ出ているようだった。
ライブ中盤は、船木とメンバーひとりひとりが歌う16分間のメドレー。船木がそれぞれに合うもの、ハロプロを好きになったきっかけの曲などから選曲した楽曲は、船木の思いの丈を受け取るようなセットリストだった。たったふたりだけのステージ、ときおり向かい合い笑顔を交わす姿に、彼女たちが育んできた友情や思い出を重ねるようでグッとくる。封印されたかのように思えた「キューティーむすぶたん」も健在だ。
新メンバーの歌唱後、再び8人でステージに上がり、竹内が「8人の気持ちをひとつにして歌います」と伝えて「君だけじゃないさ…friends」を披露。船木加入曲である「キソクタダシクウツクシク」、「マナーモード」など披露しながら、「私を創るのは私」、「泣けないぜ…共感詐欺」などアンジュルム時代の楽曲に絞られた、パワフルなナンバーが続く。「タデ食う虫もLike it!」の〈情熱 なめんじゃねえ〉など、大事なパートを任されていた船木のフレーズを浴びながら、今日しかない歌割りを噛みしめる時間。「大器晩成」を歌い終えると長い拍手が続き、卒業する仲間への思いが込められた楽曲「交差点」へ。船木を囲み歌い始めると、上國料、竹内、佐々木と先輩メンバーが続々と涙に濡れる顔を覆い、震えながら歌う。こらえていた涙が止まらない様に、どれだけ船木が大きな存在だったから言葉以上の思いを受け取るようだった。アンコールでは船木の加入から卒業までをまとめた4分間の映像が流れ、ブラウンのロングドレスに身を包んだ船木がひとりステージへ、「帰りたくないな。」を歌唱。自身のソロイベントでも「一緒に過ごした帰り道が寂しくて、アンジュルム全員で『帰りたくないな。』を熱唱していました」と話した思いを、強く感じられる姿だった。