BiSHら活躍で定着した“アイドル×ロック”のフォーマット 空想と妄想とキミの恋した世界の楽曲に感じる新たな個性

空想、“アイドル×ロック”の中の新たな個性

 アイドルがロックを歌うことは珍しいことではなくなった。BABYMETALは世界的アーティストになり、BiSHはアリーナ規模でライブを行うほどの人気になっている。かつては王道アイドルへのカウンターとしての意味や変化球としての意味を持っていた「ロックとアイドルの組み合わせ」は、今では当たり前の組み合わせになっている。

 さらに言えばアイドルが音楽にこだわることは当然であり、ルックスやキャラクター以上に重要視され始めている。欅坂46(現・櫻坂46)のヒットもクオリティの高い楽曲とメッセージ性の高い歌詞、今までのアイドルとは違うフォーメーションで魅せるダンスが影響しているかと思う。アイドルの音楽が聴かれる機会は増え続けているかもしれないが、よりリスナーの評価もシビアになっている。

 空想と妄想とキミの恋した世界(通称:空想)という女性アイドルグループがいる。結成2年目でライブを中心に活動しているが、正式にCDデビューをしていないこともありまだ知名度は高くない。しかしこれから飛躍する可能性もあるグループに思うのだ。空想もロックを歌い音楽のクオリティにこだわっている。音楽にうるさいリスナーにも評価される要素を持っていると感じる。

 「絶対的オシャレエモカワ系アイドル」というキャッチコピーで活動している空想。メロディアスで感情を吐き出すような歌唱や歌詞が特徴的なエモロックを基調とした音楽性で、ミリタリーロリータ風の衣装を着たメンバーが歌うという組み合わせによって他とは少し違う個性が生まれている。

 空想の音楽は演奏に対するこだわりも感じる。「未成年とか。」では乾いた音のエレキギターのリフが印象的だ。そこに独特なリズムパターンのドラムなど、他の楽器の音が重なり、キレのあるバンドサウンドになっている。例えばBiSH「BiSH-星が瞬く夜に-」やBABYMETAL「ギミチョコ!!」など、アイドルが歌うロックで多くの人が思い浮かべるであろう楽曲はギターの音が歪んでいる。そのためアイドルのロックとしては珍しいギターの音なのだ。

 しかし空想が乾いたギターの音のみにこだわっているかというと、そういうわけではない。楽曲ごとに音の系統は変わるのだ。「廻廊」では鍵盤の音が印象的で、「月に叢雲、花に風。」はメンバーの歌唱から始まり、そこに重なる打ち込み音に惹きつけられる。つまり演奏や音の方向性を一つに定めるのではなく、楽曲が最も魅力的になる演奏と編曲にこだわっているのだ。

空想と妄想とキミの恋した世界 「廻廊」【公式】リリックビデオ
空想と妄想とキミの恋した世界 「月に叢雲、花に風。」【公式】MV

 BiSHやBABYMETAL、PassCodeなどはサビでもソロ歌唱をすることが多い。「アイドルといえばユニゾン」というイメージに対するカウンターの意味合いと、ソロ歌唱にすることでアイドルらしさをあえて減少させる意図があるのだろう。しかし、空想はサビをユニゾンで歌うことが多い。それによってアイドル性が強まっている。かつては他との差別化やカウンターとしてソロでサビを歌っていたが、逆にユニゾンで歌うことで差別化されグループの個性になっているのだ。

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