なぜ「A Thousand Miles」は再ヒットしたのか? 時代を先導するアーティストらにも影響与えた、色褪せない名曲の力

 作曲した頃17歳だったヴァネッサは、幼い時から一生懸命取り組んできたバレエの道をあきらめて、名門バレエ学校を去り、コロンビア大学に入学するものの、どんどん膨らむ音楽への情熱にかけて大学を休学。ウエイトレスの仕事をしながら曲作りに励み、ニューヨークのクラブで演奏するようになっていた。

 そして、紆余曲折を経て、2002年にようやくデビューすると、1stアルバム『ビー・ノット・ノーバディ』が世界中で大ヒットする。この年は新人の当たり年で、「A Thousand Miles」は、2003年の第45回グラミー賞で最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞にノミネートされたが、結果、受賞したのはノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」だった。ノラ・ジョーンズのこの曲も、特に目立った動きはなくても、そばに置いておきたい曲として今も根強い人気を誇っている。「A Thousand Miles」にもそんな潜在的な名曲の力があるのだと思う。

Norah Jones - Don't Know Why (Official Music Video)

 ノラもピアノの弾き語りをするが、ジャジーな彼女に対してヴァネッサはピアノから溢れ出る瑞々しい感性が際立っていた。キラキラとしたピアノの秘密を知りたくて問うと、「母がピアニストだったので、音楽教室の先生に習うことなく、自宅で母にピアノを教わっていたの。レッスンでは練習曲を弾くけど、終わると、私はそれを自由にアレンジして即興演奏するのが好きだった。母はそれを許してくれたの。厳格な先生だったら、きっと叱られていたわ。そんな即興演奏が次第に練習曲から離れて(自由に)弾くようになったのが作曲の始まりだった。それが8歳頃のこと。私としては作曲という意識もなく、自然な流れで楽しんでいただけのことだったのよ」との答えに、大いに納得した。

 当時は、ピアノにばかり心奪われていたが、今回再浮上した一因であるONE OK ROCKのカバーを聴いて、今さらだが、根底にあるもっと大きな魅力に気付かされた。この曲は、想いを寄せる人へのどこまでもピュアなラブソングなのだ。

 ONE OK ROCKのアレンジは秀逸で、イントロはアコギとグロッケンシュピールが奏でて高音のキラキラ感を醸し出しつつ、Takaが静かに歌い始めると、この歌の透明感がより際立ち、せつなさとは違う、純真な恋心がまっすぐに伝わってくる。

 そんな歌を、現在もシンガーソングライターとして活動を続けているヴァネッサは、今聴いてどんな想いが蘇ってくるのだろうか。

「あの曲(「A Thousand Miles」)は、絶対に自分のアルバムを作るまで頑張ると、ニューヨークで意気込んでいた17歳の時に書いたものなの。当時片思いをしていた人を想う、私のエネルギーを全部歌に注ぎこむつもりで書いた。シャイな性格だったので、その人に自己紹介すらできなかった。そんな歌を聴いて、今感じるのは音楽的な野心と、17歳だった私は未熟であっても、ちゃんと本物の表現をする位置に立てていたことね。濾過されていないナチュラルな愛らしさがこの歌にはあると思う」

 このコメントこそ、時代を超えて、今の10代、20代のリスナーの心に刺さる一番の理由かもしれない。ヒットを生むために書いた曲ではなく、告白すら出来なかった人への想いを流行のサウンドや言葉で飾らずに、素直に綴った歌だからこそ、今も色褪せることない名曲として、こうして自然発生的にリバイバルヒットしたのだ。オーガニックであることを好む彼女を象徴する歌であり、現象だと思う。

 最後に、日本独自企画アルバム『ピアノ・ソングス』はデジタル配信に続き、12月には急遽CDリリースも決定している。「A Thousand Miles」をはじめ、今年リリースされたばかりの新作『Love Is an Art』などからもピアノが印象的な楽曲が収録される。ぜひお楽しみに。

Vanessa Carlton - Future Pain [Official Video]]
『ピアノ・ソングス』

■配信情報
ヴァネッサ・カールトン
『ピアノ・ソングス』
2020年10月16日デジタル配信
購入・視聴はこちら

<収録曲>
1. Take It Easy テイク・イット・イージー
2. Future Pain フューチャー・ペイン
3. The Only Way to Love ジ・オンリー・ウェイ・トゥ・ラヴ
4. Willows ウィロウズ
5. I Can’t Stay the Same [Demo] アイ・キャント・ステイ・ザ・セイム(デモ)*
6. I Know You Don’t Mean It [Demo]  アイ・ノウ・ユー・ドント・ミーン・イット(デモ)*
7. Tall Tales For Spring トール・テイルズ・フォー・スプリング
8. Break to Save ブレイク・トゥ・セイヴ ★
9. A Thousand Miles サウザンド・マイルズ
10. Nothing Where Something Used to Be [Steve Osborne Remix] ナッシング・ホエア・サムシング・ユースト・トゥ・ビー(スティーヴ・オズボーン・リミックス)**
11. The Marching Line ザ・マーチング・ライン
★8:新曲
*5, 6:未発表トラック
**10:日本での未発表バージョン

ヴァネッサ・カールトン日本公式サイト

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