桜田通が信じ続ける、コミュニケーションが生み出す希望 「人との関わりにおいて、思考を停止させたくない」

 俳優・アーティストの桜田通が、9月2日にファンクラブ「Sakura da Space Society」の開設を記念した配信ライブを行った。配信ライブでは、主演映画『ラ』の劇中歌「鼓動」から、オリジナル曲「きっと今日より」まで全13曲を披露。人と会って話すことや、ライブハウスに集うこと……いままで当たり前だったことを制限されうつむいた背中を、「明日はきっと今日より輝くよ」と歌う桜田の声がやさしくなでた。

 アミューズ所属の俳優で初めてファンクラブを開設した桜田。サイトには、ファンとつながれる仕掛けが多数用意されており、今後も進化を続けていく予定だという。初の配信ライブで感じた可能性から、ファンクラブオープン後の心境、俳優としてのスタンスまで、彼の「いま」をじっくり語ってもらった。(東谷好依)

喜びをいくら重ねても損はない

ーー今年2月末に予定していた『Sakura da Festa 2020 〜Starting of a New World〜』(以下、サクフェス)の最終公演が、新型コロナウイルスの影響で中止になりました。中止を決めたときの率直な気持ちを教えてください。

桜田通(以下、桜田):結論から話すと、中止すること自体は平気だったんです。大分前から中止に関する話合いをしていたし、最終的な決断は僕に委ねられていたので。でも、ファンの皆さんは「中止」と知らされる瞬間まで、期待と不安が入り交じった気持ちでいるじゃないですか。だから「中止を伝えること」は、つらかったですね。何しろ経験のないことだったから、いま振り返ってみても、あのときの感情をはっきりとつかめないというか……。ひとつ言うなら、最終的に中止を決めたのは、何か大きな力に負けた気がしています。芸能界というのは、より多くの思想が集まるほうを"向かなきゃいけない雰囲気がある"世界だと思っているので。それから、ライブに来てくれるお客さんのことを考えてみて、わずかでも不安があるなら強行はしたくないなと思いました。それが、中止を決めた理由の全てですね。

ーー今回のライブ中に「配信ライブをやるつもりはなかった」と話されていました。サクフェス中止から半年の間に、どういった経緯で配信ライブを行おうと決めたのでしょうか。

桜田:僕はこれまで、お客さんの目の前に立って、直接音楽や言葉を届けられることがライブの醍醐味だと思っていたんです。だから、配信ライブをやったところで、誰にとってもプラスになるとは思わなかったんですよ。そこから、ゆるやかに考えが変わっていきました。きっかけとして最も大きかったのは、ファンクラブの開設です。ファンクラブについては、実はコロナが流行する前から進めていた企画だったんですけど、本当に会えなくなってしまったときに「いまこそファンクラブが必要じゃん」と思って。事務所の方と相談して、スピードを上げて作り上げていきました。そうやって、ファンクラブの完成が見えてきたときに、何かサプライズがほしいと思ったんです。後付けのような形で配信ライブの開催を決めて、自分のモチベーションをかき集めましたね。

ーー開催を決めるまでに、何か大きなドラマがあったわけではなかったんですね。

桜田:そうです。ただただ、目の前の状況に対応していった結果、生まれた企画でした。でも、一度決めてからの心の込め方は、尋常じゃなかったですね。僕は、喜べることが1つあると、そこにオプションを色々付けまくる習性があるんですよ(笑)。友だちの誕生日にも、プレゼントを平気で3つくらい買っちゃうんです。喜びをいくら重ねても損はないから。生きていると、悲しいことや悔しいこと、我慢しなきゃいけないこと、ムカつくことがたくさんありますが、それらを覆せるくらい、喜びをまとめてぶつけたいと思っているんです。ファンクラブ限定グッズを、ファンクラブの本オープンと同じ日に発表したのも、それが理由ですね。本来なら、もっと後に発表したほうが、グッズを作るチームも楽だったんでしょうけど。なるべく同じタイミングにぶつけようということで、皆でちょっとずつ無理をし合いました。そこにNetflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』の発表が重なったのは、嬉しい偶然でした。

ーーライブの開催を決めた後、バンド練習をされたと思いますが、過去の楽曲と向き合う中で気づいたことはありますか?

桜田:歌っていて感じたのは「2、3年前に作った曲を、なんで今日も心を込めて歌えるんだろう」ということでした。例えば「きっと今日より」には、〈空を超えても君へ届けよう〉っていう、いまの状況をそのまま表したようなリリックがあって。配信ライブのときも「これは、まさにいまの気持ちだな」って思いながら歌っていました。誰しも、いまは色々な場面で、生き残るために必死な状況だと思うんです。仕事でも人間関係でも、もっと大きな人生という括りでも。そんな極限のような状態でも、過去に作った楽曲の力強さは衰えていなくて、「これまで伝えてきたことは間違っていなかったんだな」と安心しましたね。

――いまだからこそ、メッセージ性がより強まるリリックが多いと感じました。個人的には「会いたい」の〈会いたいなんて言わない〉という部分が、心にずしんと響きましたね。いまは、会いたい人に気軽に会えない状況なので。

桜田:すごいですよね! 僕は「会いたい」のDメロが好きなんです。〈距離の分だけ恋しさは〉なんて、まさにいまのことじゃんって思います。なんなんでしょうね……すごく不思議だし、僕も自分の楽曲に救われました。

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