LAMP IN TERREN、活躍の場を広げるボーカリスト・松本大の表現力 豊かな感情描写と歌心は『FRAGILE』でどう進化する?
LAMP IN TERRENのボーカル&ギター、松本 大。ここ最近、彼の名前を単独で見かける機会が増えてきた気がする。一番目にする機会が多いのは、「FM802弾き語り部」部長としての活動。「弾き語り部」はコロナ禍においても(オンライン含め)ライブを積極的に開催しているほか、以前「弾き語り部」で共演したビッケブランカの新曲「Little Summer」にも松本は参加している。それとは別に、東海オンエア・としみつの配信に出演していたのも記憶に新しい。としみつとの配信では弾き語りを披露していて、元々LAMP IN TERRENのことを知らなかった人の関心も集めていた。
このように、松本の歌がバンドの外側にも波及し始めている現状がある。松本の歌声はハスキーボイスにあたり、「ガラッとした」と形容できるようなノイズがわずかに混ざっている。声質に関しては天性のものとしか言いようのない部分もあるが、松本の場合、生まれ持った才を活かしながらも、自身の感情をボーカル表現に落とし込むことを大事にしているように見える。その突出した感情表現こそが、多くの人の心を掴む鍵となっているのではないだろうか。
松本の歌に初めて触れる人にとって、最もインパクトに残るであろう要素は、地声による高音域の発声だろう。一番分かりやすいのは「innocence」(2016年)。サビで張り上げられた高音は獣の咆哮に近く、この声に胸を深く抉られた感触を覚えたリスナーも少なくないのでは。この発声は比較的多く見られるが、前出の「innocence」や「New Clothes」(2018年)のような自己を巡る葛藤が描かれた曲、および、ライブというシチュエーションとの相性が特に良い。
“声が良い”とか“歌唱力が高い”というのは、もちろんボーカリストにとって軽視できない要素だが、加えて、ロックバンドのフロントマンにとっては、“感情に訴えかけることができる”というのも非常に大事なポイントだ。だからこそ“歌い叫ぶ”みたいなスタイルに偏ってしまう恐れが出てくるものだが、松本の表現はそこに留まらず、多岐にわたっている。例えば、「花と詩人」(2018年)のAメロのように、ハスキーボイス特有の歪みをあえて抑え、声の空気成分を増やすことで、やわらかに聴こえさせている曲もある。また、「heartbeat」(2016年)のように、同じhiB♭でも地声で歌ったり裏声で歌ったりすることで、ニュアンスの違いを出している曲がある(サビを聴き比べてみてほしい)。「地球儀」(2017年)はダンサブルな曲調だが、メロディはぶつ切りにはなっておらず、サビの歌唱からは大きなフレージングを感じる。このバンドの真ん中には“歌心”があるのだと改めて実感させられた。
切迫感のあるアッパーチューンから穏やかなバラードまで。様々な色を持った曲それ自体に寄り添うように、松本の歌もまた、様々な表情を見せている。ここまで紹介した曲のリリース年も明記しているのは、その時々での課題と挑戦が各曲から見えるからだ。そして、積み重ねが実を結び始めたのが、おそらく2019年だったのだろう。この頃に発表された曲は特に覚醒ぶりが凄まじい。個人的にハッとさせられたのは、「ホワイトライクミー」のクライマックス、上昇するメロディに息が吹き込まれていく箇所(3:50~3:58)。それから「ほむらの果て」のAメロは、打ち震えているみたいに抑制を効かせた歌い方。ある種のゾーンに入り始めたような手応えも感じるし、だからこそ「まだまだ伸びしろがありそう」と思わされたりもする。