くるり、岸田繁楽団による『京都音楽博覧会2020』 『京都音博』らしい空気感と通年では観ることのできないアクトの数々

ファンファン

 ファンファンのトランペットが曲のキーを握る「Liberty & Gravity」を経て……知らない曲だ。リアルタイムで1曲ずつ教えてくれる『京都音博』の公式ツイートによると、「益荒男さん」という新曲。跳ねるリズムに大正歌謡のようなメロディ、歌詞にも〈オッペケペー〉とか出てくるオリエンタルな曲である。次も新曲「潮風のアリア」、こちらはゆったりした8ビートの、ギター2本の鳴りが軸になった曲である。歌詞の〈何度でも間違えればいいさ〉というラインが印象的。続く「虹」では、2本のギターと岸田の歌と生ピアノが、せめぎ合うように奏でられ、後半ではそこにファンファンのフリューゲルホルンも挑んでいく。

 新型コロナウイルス禍でツアーを中止せざるを得なくなったのと同時にリリースを決め、即座に作って即座に発表したニューアルバム『thaw』から「鍋の中のつみれ」を聴かせた後は、岸田、佐藤、BOBOの3人編成になって「太陽のブルース」。そして3人で「トレイン・ロック・フェスティバル」。まるでパンクバンドのような演奏と歌である。

 さらに3人のままで、デビューシングル「東京」……ここまで観てようやく気がついた。岸田繁楽団は1曲ずつ収録していたが、くるりは、メンバーの出入りや楽器の持ち替えがあっても、映像も音もノンストップで回しっぱなしだ。

 3人がバラバラの方向を向いて、アウトロの「♪パーパーパラッパラッパー」をシンガロングする、不思議だが感動的な画でこの名曲が終わった、そろそろライブも終わりかな、と思ったら、さらに名曲が待っていた。

松本大樹

 松本大樹とファンファンが加わって「ロックンロール」。一作ごとに音が変わるジャンルレスの音楽集団のようでもあるが、軸はロックバンドであることを、この曲で見せつける。

 さらに『thaw』から「怒りのぶるうす」を叩きつけるように演奏し、2018年のアルバム『ソングライン』収録のインスト曲「Tokyo OP」で、完全にプログレバンドと化す。

 そして、岸田、佐藤、ファンファンのメンバー3人だけになって、さっき小山田壮平が歌ったばかりの「ブレーメン」。この曲はメンバー3人だけでやる、というのは、『京都音博』の恒例だ。そのまま3人で「キャメル」、ということは、ラストは……と思ったら、やはり、岸田の歌とアコースティックギター、佐藤のベース、ファンファンのトランペットで「宿はなし」だった。歌う岸田の左に、スタッフロールが流れる。

 『京都音博』、一回も欠かさず観続けているが、この「宿はなし」を聴くと、「ああ、今年の『音博』も終わりだなあ」とか「1年経ったなあ」などと、いつもしみじみする。配信である今年も、やはり、そうだった。

 打ち上げ配信での岸田の話によると、岸田繁楽団という新しい企画は、もう少し先にやろうと思っていたが、今回このような状況になったので、早めて実行したそうだ。くるりの方も、今回のようなメンバーと選曲は、普段ならデフォルトだが、ロックバンド編成でフルボリュームでライブをやることが環境的に難しい場所である『京都音博』では、なかなか観ることができない。

 というように、どちらも、通年の『京都音博』では観ることのできないアクトになっていた。でありながら、同時に、とても『京都音博』らしい空気感に満ちたライブでもあった。

 「音博って、『雨乞い』やなくて『音乞い』なんですよ」。打ち上げ配信で岸田はそう言っていた。自分のように人前で音楽をやったりしている者は、体調が悪くなった時は、何かが自分の身体に憑いていたりすることもあるのだと思う、でもライブでエネルギーを出して演奏することでそれが祓える、しばらくライブから遠ざかっていて、今回拾得でやって、そのことを実感したーー要約すると、そんな内容だった。

 「なんか急にスピリチュアルな、ムー(オカルト雑誌)みたいなこと言うてるけどさ」と、自分につっこみながらしゃべっていたが、『音博』を観たばかりだと、何かとても共感できる話だった。

くるり オフィシャルサイト

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