Serph、ファンタジックな電子音が彩る珠玉のディズニーソング集 “出会うべくして出会った”美しいコラボの魅力を探る
去る8月7日にEP『Astral Pancake』をリリースしたばかりの日本の電子音楽家 Serphが、全編ディズニー楽曲のカバーアルバム『Disney Glitter Melodies』を発表する。タイトル通り、ディズニー作品のキラキラしたメロディを、Serph流のファンタジックでポップで美しい電子音が彩るという内容だ。ディズニーのカバーアルバムは、これまでも国内外問わず多数リリースされているが、アーティストの音楽性と、楽曲のキャラクターがこれほどまでにぴったりと一致した例は滅多にないのではないか。最初に企画を耳にした時は虚を突かれた気にもなったが、いざ耳にしてしまえば、なぜこういうアルバムが今まで生まれなかったのだろう、とさえ思えてしまう。Serphのファンも、ディズニー作品を愛する人も、誰もが納得できるアルバムではないだろうか。
アルバムの冒頭は『アラジン』の主題歌「A Whole New World」で始まる。アラジンとジャスミンが魔法のじゅうたんに乗って世界中を旅する場面で歌われる名曲だ。もちろん原曲はボーカル入りの歌ものだが、Serphバージョンは声ネタのサンプルを散りばめ、ピアノのリフレインとキュートな電子音を効果的に活かしたインストのエレクトロニカに仕上げ、旅立ちの歌に相応しい希望に満ちた世界を作り上げている。
間髪入れずに登場するのはディズニーランドのパレードの曲「Main Street Electrical Parade」。ディズニーランドに行ったことのある人なら、いつ果てることもなく繰り返されるエレクトリカルパレードのミニマルでファンタジックで、サイケデリックでさえある電子音のリフレインが耳にこびりついて離れない、という人も多いだろう。オリジナルは1960年代の元祖電子音楽ユニット、Perrey & Kingsleyの「Baroque Hoedown」をアレンジした曲で、そういう意味ではSerphのルーツに通じる楽曲とも言える。だがSerphはサイケな電子音楽色をあまり前面に出すことなく、むしろ生楽器を効果的に活かしたクラシカルなアレンジになっているのが興味深い。
そしてアルバム3曲目は本作の目玉ともいうべき作品。『アナと雪の女王』のヒット曲「Let It Go」の日本語バージョンだ。歌うのは声優・歌手の牧野由依。Serphは今年になって異なる3人のボーカリストとのコラボEP『Singing Fruits』をリリースしているし、女性ボーカリストNozomiとのユニット・N-qiaとしても活動しているが、Serphのフルアルバムに外部ボーカリストをフィーチャーしたのはこれが初めて。そのように節目となる楽曲で歌うのは牧野でなくてはならなかった。Serphはこうコメントしている。
「歌物を全く受け付けなかった頃に唯一響いたのが牧野由依さんの歌でした。繊細さと力強さを持った歌い手さんとしてデビュー前から憧れていた方です。Let It Goなら牧野さんしかいないと直感しました。夢が叶いました」
「繊細な線で描写された雪の女王が心のままに歌ってる感じで最高です」
「吹き荒れる雪や氷を細かい電子音のハーモニーで描きました。その中で想いが躍動します。エモーションを際立たせるためにビートは抑えました。トラックが出来てサビのハモリを想像した時に思わず泣けてきました」
コメントの文面からもSerphの深い思い入れが感じられるが、これを受け牧野も「お話をいただいた時には『この曲を…私が?! 歌わせていただいて良いのでしょうか…?』と期待と不安と喜びとが混ざった感情だったのですが、Serphさんのこれまでの作品や『レット・イット・ゴー』のアレンジを聞かせて頂いて、この曲において自分自身が目指す方向性が見えた気がしました」とコメントしている。両者にとって良いコラボレーションとなったことがうかがえる。日本版オリジナルの松たか子やエンドソングのMay J.に比べるとキュートさが前面に出たバージョンだ。