King & Prince『L&』を深く紐解く3つのポイント 人々に寄り添い、エンターテイナーとして挑戦し続ける“グループの今”

King & Prince『L&』を深く紐解くポイント

 King & Princeが2ndアルバム『L&』を発売した。今作には4thシングル「koi-wazurai」(映画『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』主題歌)や5thシングル「Mazy Night」(日本テレビ系土曜ドラマ『未満警察 ミッドナイトランナー』主題歌)に加え、「Key of Heart」(映画『弱虫ペダル』主題歌)、各メンバーのプロデュース曲などが収録。1stアルバムからは約1年2カ月ぶりのリリースとなる。

 このアルバムは、大きく分けて3つのポイントがある。ひとつは、海外への意識が感じ取れる作品であること。もうひとつは、コロナ禍における作品だということ。そしてもうひとつは、彼らがエンターテイナーとしての姿勢を忘れていないこと。

 この3つの点について本作を深堀りしていきたい。

彼らが目指す“海外進出”

 CD不況と言われ久しい昨今。「そもそもこの時代にメジャーデビューする意味とは?」という疑問すら囁かれる中で、彼らはただひたすら“デビュー”にこだわり続けた。そして、そんな時代に真っ向から勝負するようにして、2018年に「シンデレラガール」という白馬の王子様のような王道中の王道の楽曲でデビューを果たす。その反響の大きさについてはあえてここで書く必要もないだろう。

 しかし、そのデビューから大きな分岐点となったのが今年6月にリリースした5枚目のシングル『Mazy Night』だ。このシングルは以前リアルサウンドでも書いた通り(参照:King & Prince、イメージを刷新する大胆でクールな「Mazy Night」の魅力 楽曲、ダンス、MVから徹底分析)、それまでのイメージを刷新した強力なナンバーであった。リズム感を重視した英語詞であったり、大規模の会場を揺らすようなダイナミックなエレクトロニックサウンドを響かせている。そこには彼らがたびたび口にしている「海外進出」への意識が表れているように思う。

King & Prince「Mazy Night」Music Video

 嵐やSexy Zoneなどの例を見ても、近年のジャニーズからは海外への意識を強く感じ取れる。サブスク解禁やNetflixでのドキュメンタリー配信などデジタル業界へ展開している嵐は、過去のシングル曲をリプロダクションする“Reborn”企画において海外のサウンドに接近する作風を見せている。また、Sexy Zoneは今年所属するレコード会社を移籍。その移籍先は、世界に販路を持つ大手レコード会社ユニバーサルミュージックとジャニーズ事務所がタッグを組んで設立した<Top J Records>である。ちなみに、ジャニーズ事務所とユニバーサルミュージックが初めてタッグを組んで設立したのが<Johnnys’ Universe>。そこからデビューしたのが、King & Princeである。

 そう、彼らがデビューにこだわった理由……それがまさしく”海外進出”なのではないだろうか。そしてこの『L&』には、そうした要素が盛り込まれている。

 たとえば、通常盤の最後に収録されている「Bounce」は、ビヨンセやリアーナにも楽曲を提供する若手ソングライターのPrince Charlezが作詞作曲に参加。昨今の世界の音楽のトレンドともリンクするような洗練された音作りが素晴らしい。今回レコーディングをはじめとして、ダンスレッスンやボーカルレッスンまでもアメリカで敢行。その模様は初回限定盤のDVDに収録されている。また、14曲目の「Freak out」もイギリスを拠点に多くのK-POPを手掛けるKyler Nikoが作曲に参加。近年の海外のダンスミュージックと比べてもなんら遜色ないクオリティのこの曲が、アルバムの射程距離をぐんと広げている。

 あるいは、先鋭的なセンスを持ったAwesome City Clubのatagiが作詞作曲した5曲目の「ナミウテココロ」のように、曲そのものは日本のシティポップ由来の作りでありながらも、歌っている内容は“未来への漠然とした不安”であり、彼らの抱く夢の大きさが暗に伝わるものとなっている。

 こうした楽曲が収録されていることからも、このアルバムは彼らの海外進出へ向けた”第一歩”的作品として位置付けられるだろう。そういう意味でも、彼らが船に乗って旅立っているような初回限定盤のアートワークは示唆的だ。

King & Prince【初回限定盤B】特典映像 アメリカ武者修行「The Documentary - King & Prince in America-」ダイジェスト

“今”を生きる人々にやさしく寄り添う楽曲

 しかし、だからと言ってこのアルバムは、自分たちの夢ばかりを滔々と語って終わるだけではない。言うまでもなく世界は現在大変な状況であり、日本ではコロナ禍に加えて自然災害も頻発している。そうした状況の“今”を生きる人々にやさしく寄り添うような楽曲も非常に印象的なのだ。

 たとえば、1曲目の「Key of Heart」はホーンやストリングスなどで豪華に彩られた演奏や軽快なリズムに支えられたサウンドで、一聴すれば暗い気分も吹き飛ぶ魅力がある。2020年に発表される作品の幕開けにふさわしい、聴き手を明るく勇気付ける応援歌だ。平野紫耀がプロデュースした11曲目の「Focus」は、イントロに差し込まれた大歓声や、キラキラしたピアノのタッチ、聴き手の背中を押すような力強い手拍子など、すべての音が〈平凡な日常〉や〈ありのまま〉を肯定するように鳴り響く。ネガティブに陥りがちな日常をポジティブに捉え直して〈今できること〉にフォーカスしようという、これからの生き方についての提案の歌として聴けるだろう。

 さらに、16曲目の「君がいる世界」は全作品の中でも圧倒的に“今”に向けられた一曲。やさしく語りかけるような美しいメロディや、今野均によるブラスやストリングスのみずみずしいアレンジには普遍的なポップスの魅力が詰まっているが、なにより〈画面の中の現実 ひとり取り残されて〉という歌い出しから始まる歌詞が、この時代を生きる我々の心に染み渡る。

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