Reol、配信ならではのパフォーマンスで光らせた現実 『Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-』を観て
また、印象的だったのはReolが日本語だけでなく中国語や英語でもファンに呼びかけていたことだ。本来、ツアーは横浜港を眺める神奈川県民ホールでの『ハーメルンの大号令 -出港編-』を経て、中国5都市での『Reol China Tour Hamelin’s 大号令』も開催する予定で、この日も中国のファンに向けてMOVETUBEで生中継されていた。「HYPE MODE」で〈made in どこでもないところ〉と歌っているように、Reolにとっては日本で歌うのも、海外で歌うのも関係ない。東京が音楽をやるためにいる場所にすぎないだけのこと。そんな気概をガツンと見せつけられた。
ツアーで披露するはずのなかった新曲「第六感」がコメント欄を大いに沸かせる一方で、ファンの心を打ったのが「1LDK」だった。客席の一角に用意されたこじんまりとした部屋。片隅に置かれたライトを付け、Reolはゆっくりと話し始める。16歳の時に父親を亡くし、今月で10年が経つこと。当時、身近な人を亡くし、死生観を持つようになりながらも、気持ちの整理がつかず、ひたすら聴いていたのが音楽だった。
「当時、16歳だった自分にとって音楽とインターネットは逃げ場でしかなくて、それが十年たった今こうしてインターネットと音楽を通じて、現実に前進することが出来ている。インターネットと、音楽、その両方があるこの場所で、そしてそれがたくさんの芸術が生まれてきた渋谷公会堂であるということは、自分にとって大きな意味があります」
「境遇は違えど、四苦八苦しながら今日までを生き抜いてきたと思うんですね。そんな、あなたに向けて。そして、あの時の自分に向けて。ここ、東京から」
そう告げ、Reolは自分と音楽との在り方を書いた「1LDK」を歌い始める。嫌悪感、肯定できない自分自身、好きの裏腹にある嫌い。クソみたいな現実を塗り替えてくれたのは音楽であり、ファンにとってはそれがReolの楽曲になる。感情の乗った力強い歌声で熱唱するReolは、視聴者2万5000人の紛れもない代弁者だった。
アンコールのラストに選ばれたのは、彼女の原点の曲「No title」。ファンの人生に寄り添い愛されるようになった曲だ。Reolは最後に「感無量ですけど、泣くのはみなさんが一緒にライヴに参加できるようになったらかなと思っています」と言葉を残し、紙吹雪が舞うステージを後にした。
彼女の言う通り、またあの時のようにライヴが出来る日は、きっと来る。そんな輝く未来へ、Reolはクソみたいな現実を光らせてくれた。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter