Awichはどこまで昇り詰めるのか メジャーデビュー作『Partition』で辿り着いた表現とスタンス

 あなたが、もしもまだAwichを聴いたことがなかったら。

 まずは一人でひっそりと、彼女の音楽を体験してみるべきである。

 辛く哀しい夜でもよい。もしくは、クリエイティビティを存分に発揮したい昼間でもよい。

 いま、彼女ほど聴き手を挑発し、インスピレーションを刺激してくるアーティストはいない。

 入門にはどの作品が良いか。ディスコグラフィーには多種多様な傑作が並ぶ。いずれもとにかくテンションが高くハイカロリーだが、今なら真っ先にEP『Partition』を耳にすべきだろう。過去作品にも見られる混沌としたAwichの“念”は残しつつも、コンパクトに整理されまとまっている。自己紹介の一枚としてぴったりのこの作品こそが、いまラップミュージックを超えて音楽シーン全体をも揺るがそうとしている、Awichのメジャーデビュー作である。

 Awichのデビューは実は10年以上前、2006年まで遡る。EP『Inner Research』をリリースし、さらに2007年には1stフルアルバム『Asia Wish Child』を制作。拠点をアトランタに置き活動していたが、プライベートで大切な人を亡くすという痛ましい事件を経て、故郷である沖縄に娘と帰る。大きな紆余曲折と苦労を経て、2017年、突如シーンに舞い戻る。ここから、目の離せない快進撃が始まった。2017年と言えば、前年までのMCバトルの人気などを経て、ラップミュージックシーンに新世代のスターが次々と現れ、大きな注目が集まった時期である。その2017年7月に、AwichはYOUNG JUJUを客演に迎えた「Remember」で突如ラップチャートとクラブフロアを席巻する。今でも忘れない、トライバルなトラックに乗った力のある跳ねたラップ、艶っぽい歌声。あの夏、Awichで皆が踊っていた。その実力に将来を嘱望し、次のリリースを恋しく待った。

Awich - Remember feat. YOUNG JUJU (Prod. Chaki Zulu)

 「Remember」はChaki Zuluによるプロデュースで、彼とのタッグが始まったという点で、実は彼女にとってこの作品が最大の転機だったかもしれない。二人のコンビは溢れる才能とセンスある時代感を結びつけ、長きに渡り揺るぎないオリジナリティを生むことになった。Chaki Zuluの所属するヒップホップクルー・YENTOWNと動きを共にするようになったことも、彼女のさらなる才能を触発した。

 「Remember」に続きすぐに公開された、ANARCHYを客演に迎えた「WHORU?」のMVも大きな話題をさらった。トレンドのど真ん中を狙って落としたトラップチューンは、〈マジでお前誰?〉という挑発的なフックがミームと化し拡散していった。ほどなくして、2017年8月にはアルバム『8』がリリースされる。

Awich - WHORU? feat. ANARCHY (Prod. Chaki Zulu)

 『8』の衝撃は凄まじかった。「Remember」「WHORU?」から大きく幅を広げ、様々な音楽性を飲み込み吐き出すAwichとChaki Zuluのパフォーマンスは、この作品をもって唯一無二の確固たる地位を築いた。どこかムーディで耽美的、一方で多彩なリズムが並ぶ作風は、トラップ以降の感覚でトリップホップ~ブリストルサウンドを再解釈したような独特な世界観を見せる。「US/UKヒップホップと同列に聴ける国産ヒップホップ」の最右翼に躍り出た彼女は、最も次のアルバムが待たれるラッパーとなった。

 EPのリリースや様々な客演を経て、2020年1月、ついに次なるアルバム『孔雀』が陽の目を浴びる。彼女自身「毒をありのままに歌って、そこから気づきを得て、だんだん浄化していく展開にしたかった」と語る通り、『8』からさらにおどろおどろしく、さらに神聖な深みを増したコンセプチュアルな作品に昇華された。音楽的には変わらずトラップが軸足にありつつも、そこからジャンル横断的にアプローチを拡大していく手腕は、ひたすら一辺倒なパターンを繰り返すトラップへの反動として、魅力的に機能している。

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