ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察

ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察(1)初音ミク主体の黎明期からクリエイター主体のVOCAROCKへ

 2008年の中頃に入るとまた新しい潮流が生まれる。それまではポップスや打ち込みサウンドが主流であったボカロ曲のヒットチャートに、本格的にバンド出身者によるロックが台頭し始めたのだ。中でもぼからん#52~#54(2008年9月22日~2008年10月13日)は興味深い。後に「天ノ弱」を発表する164の初投稿作「shiningray」、後に「No Logic」「Calc.」を発表するOneRoom(ジミーサムP)の出世作「Scene」、後に「ダブルラリアット」を発表するアゴアニキの出世作「よっこらせっくす」、後に「モザイクロール」「ヒバナ」を発表するDECO*27の初投稿作「僕みたいな君 君みたいな僕」が上位5位にランクインしているのだ。もちろんbakerなどの前例はあったものの、VOCALOIDを用いたロック=「VOCAROCK」の隆盛の直接的な源流はこの辺りだろう。

【巡音ルカ】ダブルラリアット【Double Lariat】【HD】
livetune feat.初音ミク『Re:package』

 2008年8月27日にはlivetune feat.初音ミク『Re:package』がビクターエンタテインメントよりリリースされ、初のメジャー流通されたボカロアルバムとなった。ボカロ曲のカラオケ配信が本格的に始まり、ボカロ曲の流行に多大に寄与したと思われるニンテンドーDSiのソフト『うごくメモ帳』のサービスが開始したのもこの時期である。また、現代音楽やブレイクコアを取り入れた楽曲が特徴のTreow、プログレッシブロックに影響を受けた複雑なリズム/展開が特徴のsasakure.UKのヒットがこの時期であることも指摘したい。VOCALOIDを用いているという点だけで1つの音楽シーンとして成立しているボカロシーンは、時にして先鋭的な楽曲もヒットすることができる土壌であり、彼らはそれを証明した最初の世代である。先鋭的なヒット曲と言えば、「ボカロならでは」の高速歌唱を提示したcosMo(暴走P)「初音ミクの消失」も2008年に投稿された楽曲だ(オリジナル版は2007年投稿)。

初音ミクオリジナル曲 「初音ミクの消失(LONG VERSION)」

 2008年にcosMoが実行したものが「ボカロならでは」な音楽だったとすれば、2009~2011年にwowakaとハチが実行したものは「ボカロっぽい」音楽である――と書くと違和感を持つ人もいるかもしれないが、その感覚は当たり前だ。当時から彼らの作風を「ボカロっぽい」と思っていた人物はいるはずがない。彼らに影響を受けたフォロワーが多数現れ、そのフォロワー自体も有名になりボカロシーン外に認知されることによって初めて「ボカロっぽい」と言われるようになるのだ。単にフォロワーがぽつぽつと現れただけでは「○○Pっぽい」とボカロシーン内から言われて終わってしまうし、フォロワーが多数生まれても有名にならなければ外側から見て「ボカロっぽい」とはならないだろう。しかし筆者は彼らの打ち出した音楽は現在の音楽を語る上で欠かせない要素であると判断し、あえてこの時点で彼らの音楽性を「ボカロっぽい」と断定する。次回からは「ボカロっぽい」についての考察も織り交ぜながらボカロシーンの音楽的な流行の変遷を追っていこうと思う。

ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察(2)シーンを席巻したwowakaとハチ へ続く)

■Flat
2001年生まれ。音楽を聴く。たまに作る。2020年よりnoteにてボカロを中心とした記事の執筆を行う。noteTwitter

ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察

・(1)初音ミク主体の黎明期からクリエイター主体のVOCAROCKへ
・(2)シーンを席巻したwowakaとハチ
・(3)kemuとトーマ、じんが後続に与えた影響
・(4)n-bunaとOrangestarの登場がもたらした新たな感覚

※記事初出時より一部表現を修正いたしました。

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