sora tob sakana、ラストアルバムで紐解く解散までの軌跡 アイドル界でも異彩を放った唯一無二のアイデンティティ

オサカナ、ラストアルバムレビュー

 9月6日に日本青年館ホールにて開催される、ラストワンマンライブ『untie』をもって解散することを発表した、3人組アイドルグループ「sora tob sakana(略称はオサカナ)」。8月5日には、彼女たちのラストアルバム『deep blue』がリリースされる。ポストロック、エレクトロニカを基調とし、アイドル界で唯一無二のオリジナリティを誇る音楽性を持つ彼女たちが最後に放つアルバムは、約6年に渡る活動の集大成的作品となっている。

壮大な世界観とダークな雰囲気を持つ新曲「信号」

sora tob sakana/信号(Full)

 ラストアルバム『deep blue』は、「BD付初回限定盤」「DVD付初回限定盤」「通常盤」の3形態でリリースされる。共通してCDに収録されるのは、過去の代表曲9曲に加え、「信号」と「untie」の新曲2曲の、全11曲。昨年5月にメンバーの風間玲マライカが卒業し4人体制から現行の寺口夏花、神﨑風花、山崎愛の3人体制になったが、今回のリリースにあたり、9曲全てを現体制にて再レコーディングを行っている。通常盤のジャケットには、砂浜から海へと歩いて行く3人の背中が小さく映った、ラストを象徴する写真が使用されている。タイトルの「deep bule」になぞらえてか、空と海だけでなくジャケット全体が青みがかっていて、オサカナらしい儚げで繊細な印象を抱かせる。

 全ての楽曲提供を行っているのは、オサカナの音楽プロデューサー・照井順政(ハイスイノナサ、siraph etc)だ。1曲目は、7月22日に先行DL配信販売された「信号」。〈水平線の果てまで〉〈透明な海で〉と、ここでも海のイメージを抱かせる歌詞が幾度も出て来る。壮大な世界観とダークな雰囲気を持つサウンドに、6年の活動を経て成長した3人のボーカルが融和する、アルバムの幕開けに相応しい楽曲だ。

 続く2曲目から6曲目までは、2016年の「アイドル楽曲大賞」のアルバム部門でも第1位を獲得した1stアルバム『sora tob sakana』(2016年7月発売)からの楽曲。2曲目「クラウチングスタート」では、甘酸っぱい初恋の想いが描かれている。当時所属していたメンバー1名が卒業するタイミングで書かれた曲で、思春期の焦燥感と、新しい門出を送り出す内容が、現在のオサカナの状況にもシンクロしている。3曲目「夜空を全部」は、1stシングルの表題曲でもある。子どもの頃に感じた夜の神聖さや、その中を自転車で走る疾走感を思い出させる曲だ。

 4曲目は初期の傑作「魔法の言葉」。2ndシングルの表題曲で、目まぐるしく世界が変わっていく思春期の季節の中で、“君”と交わした約束と“魔法の言葉”を胸に日々を過ごす、切ない気持ちが歌われている。5曲目「広告の街」は、それまでの楽曲と比べて、アイドルポップスらしさから、よりプロデューサーの照井自身が持つ音楽性へと近づいた、複雑なポストロック的楽曲だ。当時のオサカナにとってエポックな作品となった。6曲目「まぶしい」は、思春期における不安な毎日の中でも、“君”の瞳はまぶしくきらめている、という希望を歌った曲だ。

3人が“ほどけ”て、静かに別れて行く新曲「untie」

sora tob sakana/untie(Full)

 1stアルバム『sora tob sakana』では、思春期やジュブナイルの時代の少年少女について描かれていた。しかしメンバーが実際に年齢を重ね成長していくにつれ、楽曲もそれに合わせた内容に変化して行く。7曲目から10曲目は、1stミニアルバム『cocoon ep』(2017年4月発売)と2ndミニアルバム『alight ep』(2018年5月発売)からの楽曲。ジュブナイルという繭から出て、その先へと進むオサカナが描かれている。

 7曲目「Brand New Blue」は、『alight ep』に収録されたバージョンでは、当時初の外部編曲家である白戸佑輔を起用していた。が、今回は編曲も照井が担当し、アルバムとしての一貫性が補強されている。8曲目「New Stranger」は、90年代のアーケードゲームをテーマにした青春ラブコメ漫画『ハイスコアガール』のテレビアニメ主題歌に起用された、メジャー以降のオサカナの代表曲。従来通りポストロック、エロクトロニカを基調としつつも、タイアップに沿ってゲームミュージックのテイストが散りばめられている。「思春期の少年少女によるラブコメ」という作品性と合致し、互いの作品の良さを引き出し合った名曲だ。9曲目「夜間飛行」は、ストレートでドラマチックな展開がアツい、『cocoon ep』の最後に収録された曲。未来への期待を強く感じさせる。10曲目「ribbon」は、クラシカルなイントロから始まるも、変態的な拍子とエモーショナルなサウンドの洪水に圧倒される、パワフルな曲。ジュブナイルの世界から一歩前へと踏み出す決意が歌われている。

 そしてラスト11曲目「untie」は、日本語訳をすると「ほどく」という意味の言葉。音数の少ないピアノの伴奏から始まり、静かに歌い出す1人のメンバー。そこに同じ歌詞を輪唱のように、他のメンバーが1人ずつ歌い重ねていく。〈海を眺めている〉〈波は産まれたばかり〉という歌詞から、ジャケットや1曲目と同じく、海のイメージが喚起される。輪唱が終わると〈偶然重なって 描かれた 星の様に 長い帯が解けて 遠い空 散らばっていく〉と、解散を想起させる歌詞が続く。3分5秒の曲だが、メンバーの歌声は1分44秒までで、それ以降は美しいインストだけが流れ、曲が終わる。まるで輪唱で重なっていた3人が“ほどけ”ていき、やがて静かに別れていくような、そんな物悲しくも美しいイメージが心の中に描かれる。直前の曲が「ribbon」なのは、そのほどけていくイメージの強調を狙ったものだろう。全体を通してオサカナの始まりと終わりを描きつつ、過去曲を現体制でのサウンドとボーカルで作り直すことで、現時点からオサカナの全活動を描き直すような、そんな1枚となっている。

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