中国ストリートダンスブームを牽引するバトル番組 “ゴッドファーザー”的存在のディレクター&注目ダンサーに現状を聞く
2006年以降、現役のダンサーの座を離れ、ダンスやダンサーをバックアップする裏方の世界に回ったファン。2018年にストリートダンス番組のシーズン1がオンラインで放送されると、あっという間に再生回数1億ビューを上回った。「これまで、数多くのダンス番組をつくってきましたが、今回、初めてストリートダンスに特化した番組をつくりました。2017年に中国のMCバトル番組が大ヒットし、ヒップホップブームが到来したこともあり、2018年はストリートダンスを前面にもってくるタイミングだと思ったんです。ストリートダンスにヒップホップは欠かせないですからね」。
番組は、400人の全国各地から集まったダンサーがダンスを愛するリーダー役の著名人の前で一人ひとりダンスを披露するところから始まる。4名のリーダーはそれぞれ25人、自分のチームにふさわしいダンサーを選んでいく。400人から100人に絞られ、4組のチームができるというのが、番組の1回目の放送だ。その後、一対一のバトル戦や24時間で振り付けを考えて合わせて一つの作品を完成させるというチーム戦を入れるなど、エンターテインメント性の強い番組構成になっている。また、毎シーズン、その時期に人気のあるアイドルや俳優といったダンスレベルの高い著名人をリーダーとして起用することで、番組の再生回数に拍車をかけている。
番組では、ストリートダンスと民族ダンス、ストリートダンスと社交ダンスのように、別のジャンルのダンスとストリートダンスを掛け合わせたコラボを発表する場面も用意されている。ファンは、アーティスティックディレクターとして、振り付けや衣装、照明などのアドバイスをする。作品に合う踊りやすい衣装、ダンスが映える照明など、ダンサーとしての長年の経験を十分に活かし、作品とダンサーを支える。番組では、リーダーの著名人やダンス関係者、一般の観客からの投票により最終的にトップ1、2のダンサーを決める。
元社交ダンスのダンサーであるファンがストリートダンスのバトル番組を仕掛けたと知った時、「なぜ、全く違うジャンルのダンス番組を彼が?」とも思った。しかし、実は「社交ダンス」はダンススポーツとして、競技性、スポーツ性、バトル性、ダンスの種類も含めたエンターテインメント性、衣装、音楽とダンスの融合が審査基準になっているのだ。ダンスのジャンルは違うけれど、社交ダンスのフォーマットと番組のフォーマットが実は同じ基準で作られていたと言える。
シーズン1の放送後、ダンス業界からだけでなく、ユースカルチャーやファッションなど若者と接点のある業界から絶大なる反響があったようだ。「ダンス番組という一つのジャンルにとどまるだけでなく、中国のユースカルチャーや人々のライフスタイルに影響を与えたと自負しています。また、アメリカでも私たちの番組を参考にした番組を検討しているようです」。番組を見てストリートダンスを始める人が増えたことは、すでに前編で書いた通りで、ファンが仕掛けたこの番組は明らかに「中国のストリートダンス産業」を生み出した。
2019年にはシーズン2も放送され、今夜からシーズン3も放送が始まる。「今回、舞台美術にピカチュウを取り入れたり、二次元の要素を取り入れたステージも用意しています。日本のアニメやカルチャーは中国の若者からは絶大な人気がありますからね。中国の若者のリアルを前面に出しました」。
2018年は「ストリートダンス元年」の火付け役となり、ストリートダンスのブームを巻き起こした。それでは、今、中国のストリートダンスはどのような段階にきているのだろうか? 「中国という枠組みを超えて、インターナショナルなものになろうとしているんだと思います。番組も同じで、来年のシーズン4では『这!就是世界街舞』とタイトルに「世界」の文字を加えてもいいかなと思うくらいです。世界レベルのダンサーがどんどん参加するようになると思いますよ」。番組に出演しているダンサーの中には、海外の大会で優勝したり、上位の成績を残しているダンサーが少なくない。来年は海外からの参戦ダンサーも増えるだろうし、さらに磨きをかけたトップクラスの中国のダンサーの参戦も期待できそうだ。