松隈ケンタに聞く、WACKサウンドを構築する音楽理論の核 「大事なのは“間合い”、会話やお笑いの感覚なんです」

松隈ケンタに聞く、WACKサウンドの核

既存のWACKイメージを消し去った2作品

GO TO THE BEDS

ーーGO TO THE BEDSで印象に残っている歌詞はありますか?

松隈:「Don't go to the bed」の〈サイレンが鳴っているの ピーポーピー〉とか面白いですよね。これは淳之介が考えたんですけど、擬音とか、キャッチーなのを入れてくるところが好きなんですよ。あとは5曲目の「パッパラパー」。このユアの歌詞も好きですね。「ぱ」とか「ぴ」が好きなんですかね(笑)。みんな何気なく歌詞を入れていると思うんですけど、そこに偶然なキャッチーさが生まれたりするんですよね。あと内容でいうとヤママチが作った「MISSING」は全体的にすごく好きですね。

ーー出てきた歌詞を見てから曲を調整することもあるんですか?

松隈:あります。作詞作曲を僕がやっている場合が多いので、その場でメロディを変えちゃったりできますから。あと、メンバーが間違えて歌ったりするときがあって、それが良かったらそのまま採用します。

ーー一方の『PARADISES』は、渋谷系のような「ALIVE」など、若い彼女たちの現在を切り取っている楽曲が多いです。「ズルい人」のアイドル歌謡感にも驚きました。

松隈:僕ら的にはこっちは実験的ですね。この辺のサウンドは、秋元康さんとか、80年代、90年代のアイドル歌謡曲がベースにしっかりとあって。バブルの時代のサウンドを入れてみたら面白いかな、と。「ズルい人」は、とんねるずの「雨の西麻布」みたいな。

PARADISES

ーーPARADISESのボーカルは誰がメインだったんですか?

松隈:月ちゃん(月ノウサギ)メインでやりましたね。キラ・メイとナルハワールドは歌の経験が少ないので、そうなると今回は月ノとテラシマ(テラシマユウカ)で引っ張っていかないといけなくて。僕の曲はふたりいないとひとつのサビが成立しないので、そこはやっぱり先輩ふたりに「ちょっと引っ張ってくれ」と言って。BiSHのアイナ(アイナ・ジ・エンド)とチッチ(セントチヒロ・チッチ)、ギャンパレでいうココとかミキちゃんみたいな。

ーースタッフさんによると、今回メンバーに対して怒ったそうですね。

松隈:珍しくちょっと若い子に怒ったんですよ。ナルハとキラに。僕、キラの声がすごく好きなんですよ。天性の歌声。口より奥側が歌うに適した骨格なので、使い方がわかればすごいボーカルになる。今回はどちらかというとナルハにわかってほしくて怒っちゃって。キラは初レコーディングでガチガチだったけど、ナルハは経験者だから、「もっとやってこれるよね?」って、ちょっとそういう駆け引き的にふたりとも怒ってみましたね。キラにはちょっと申し訳ないことをしたな(笑)。でも、逆に言うと、キラなら大丈夫だろうと思って言ったんですよ。

ーー今や松隈さんも娘さんがいて、作曲も一緒にやるようになって。父親目線としてはどうなのかなって。

松隈:ナルハ以降は年齢的に若すぎてもう娘レベルですよね。今までの子たちと違って、僕との距離がすごくあるんですよ。だからプライベート的な話もそんなにしゃべったことがなくて。レコーディングブースに入ったときはもちろんひとりずつ話しますけど。

PARADISES 「終わらない旅」ミュージックビデオ

ーー「WACKらしいサウンド=ロック、パンク」みたいなイメージって世間的にあると思うんですよ。そういうWACKのイメージは、今回2枚のアルバムを作るときにどのくらい意識しましたか?

松隈:今回は初めてそういうイメージを消し去った感覚はありますね。それがGO TO THE BEDSのアルバムの全体的なまろやかさだったりすると思います。ギャンパレの今までのイメージをひっくり返すのは簡単なんですよ。ただ、それを残しつつ新たなリスナーとファン層を広げる感覚でした。

泣きのメロディを入れる“間合い”が重要

ーー4月にテレビ朝日の『関ジャム完全燃SHOW』に出演して、辛口な発言が話題になりましたが、音楽プロデューサーとして、俯瞰的な視点で現在のアイドルシーンの音楽はどう見えていますか?

松隈:せっかくいろんな人に聴いてもらえるチャンスなのに、なんかすげーマニアックになっていってるのが残念だな、って。アイドルたちに対してではなくて、クリエイターとしてはチャンスなのに、という意味で。

ーーマニアックになっている、というのは具体的には?

松隈:サウンドがニッチになっていってるというか。今はそうしなくても聴いてもらえるチャンスが増えているんですよね。僕は今もサウンドは尖っていますけど、メロディとかはポップスであるべきだと常に思っていて。アイドル界もマニアックに良い歌じゃなくて、もっとシンプルに良い歌を作る人がいっぱいいてもいいのに。僕が尊敬しているプロデューサーは、中田ヤスタカさん、ヒャダインさん(前山田健一)、秋元康さん、つんく♂さんなんですけど、やっぱりみんなJ-POPを作っているんですよ。

ーーニッチなジャンルももう飽和していますよね。松隈さんにとって、J-POPでの戦い方で一番大切にしているのは何ですか?

松隈:僕の場合はメロディですね。あとは、いかに人を乗せるか。

ーー松隈さんといえば「泣きのメロディ」ですよね。しかも、もともとUK志向だった松隈さんが、ビートや乗せ方を意識するようになったというのも大きい変化ですよね。

松隈:UKやEDMのビートもだいぶ極めて仙人みたいになってきたんですけど(笑)。でも、「ドラムが、ベースが」とかじゃなくて、会話やお笑いの感覚なんですよね。「間合い」みたいな感じ。「このコードに、このメロディを当てれば泣きのメロディになる」というのは作曲家は全員知ってるんですよ。僕がこだわっているのは、それがどこに出てくるのか、その「間」ですね。

ーーJ-POPのクリエイターで、「間」まで研究してる人ってそんなに多くないんじゃないんですか?

松隈:だから、逆にわかっている人の音がわかるようになってきました。やっぱり桑田佳祐さん、山下達郎さんみたいな作家さんは、完璧に音が積まれているので参考になります。

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