jon-YAKITORY、てにをは、柊キライ......SNSでブレイク中の新世代ボカロPたち 癖になるサビと言葉遊びに注目
TikTokで楽曲が使用されてから、YouTubeやSpotifyといった配信サービスへと派生していくヒットの構図は、無名だったアーティストが、ドラマ、CM、映画などの大型タイアップを獲得するような大物アーティストと肩を並べ、日の目を見ることを可能にした。YOASOBI「夜に駆ける」を皮切りに、yama「春を告げる」といったボカロ出身アーティストの楽曲が、TikTok経由でバイラルチャートの上位に浮上してきたことも、ひとつ時代が変わったことの象徴といえる。そして今回は、すでにブレイクしているYOASOBI、yamaのほか、今後の動向が気になる3名のボカロPをピックアップする。
まずは、直近で「シカバネーゼ」を発端として、バイラルチャートでも急浮上しているjon-YAKITORY。ボカロPとして活動するようになってから、タイトル含め、言葉に遊び心を取り入れながら、キャッチーな楽曲を中心に様々な楽曲を展開してきた。2019年9月28日に公開した「シカバネーゼ / jon-YAKITORY feat.flower」を、歌い手のAdoをゲストボーカルに迎える形で、3月29日に新たにストリーミング配信すると、同曲のMVは、これまでに投稿した各MVの再生回数を大きく上回り、7月6日現在で210万回再生を突破する。驚異的なスピードで聴かれるようになったのは、曲自体が持つオーラとボーカルの歌声が見事にはまり、相乗効果を生み出したことが大きい。近年、スマッシュヒットしたビリー・アイリッシュの「bad guy」を彷彿とさせる骨太なベースとトラップビート。絶望に陥った時、神様に委ねることでしか死ねない心の闇を覗かせる歌詞。そこに重なる歌い手・Adoの気怠く、破壊的な歌声。そのすべてが混ざりあい、ダークな雰囲気を持つ楽曲が関心を集めやすい昨今のボカロシーンへと刺さったのだ。Adoほど、狂気的な歌声を持つ女性の歌い手は、界隈でも珍しい。2017年から歌い手として活動しているAdoは、ボカロP・くじらの「金木犀 feat.Ado」(2019年12月16日に配信され、7月6日現在は、656万回再生を突破)でもゲストボーカルとして参加。今年は、期待の歌い手を起用したコンピレーションアルバム『PALETTE』の第4弾アルバム『PALETTE4』(※第1弾ではEveやSouも参加している)にも参加している。ここ数年は、ボカロPとして活動しながら、自身のオリジナル曲を歌うだけではなく、ゲストボーカルを立てるボカロPも増えてきた。今後は、ボカロPがイラストレーターとタッグを組む動き同様に、さらにその動きが顕著になってくるはずだ。
ボカロシーンでは、作詞作曲、動画、イラスト、ミックス、編集などの一連の作業をすべて自身で完遂するアーティストが増えてきている。次に紹介するのは、「古書屋敷殺人事件」から始まる『女学生探偵シリーズ』を中心に、自身で小説を手がけてはMVのイラストも描くなど、多才ぶりを発揮している、てにをは。ミステリー仕立てのストーリーが描かれたMVのコメント欄には、リスナーによる考察が投稿されているのが特徴だ。今年2月7日に公開したのが、「ヴィラン」。同性愛の中でもがき苦しむ主人公の心情を綴った同曲は、その読み応えのある歌詞、ねここによるアニメーション、口ずさみたくなるメロディなどによってリスナーの考察意欲を高め、一気に界隈で人気が加速した。7月6日現在の再生回数は、373万回以上。宮下遊、めいちゃん、Souなどの人気歌い手がカバーしたうえ、TikTokでも勃興し、バイラルチャート入りも果たしている。てにをはの楽曲が癖になるのは、ストーリー性が豊かであること以上に、歌詞の中で言葉遊びもふんだんに取れ入れていることにある。例えば、サビでは、〈Villain Villain〉〈Dr.Duran Duran〉〈ヴィラン〉〈糜爛〉と脚韻を踏み、表記を変えては、巻き舌気味に「ヴィラン」と発音したり。禁断の匂いがする「ヴィラン」は、ストーリー性と遊び心で充満した1曲といえる。