ディスクガレージ 中西健夫氏が語る、持久戦に向かうライブ・イベント業界の今後「脱落する人をどれだけ救えるかがテーマ」

ライブは観光産業の復興や内需拡大に向けて有効な産業

ーーコロナウイルスによる事態は長期化する可能性があります。ライブ・イベントの文化を絶やさぬための打開策はどのようなことが考えられるでしょうか。現時点でのお考えを教えてください。

中西:それは単純に、ワクチンと治療薬だと思います。治療薬がない限り人は安心できないと思うので。自粛要請が解除されていったとしても、感染リスクがある限り家から出ないという考えの方は多いだろうし、その方は三密であるライブに行こうという気にまずなれないですよね。僕らがどんな方法を模索しても、やっぱりワクチンがないと安心してライブに行こうと思ってもらえたり、その不安を取り払うことはできないと思います。震災の時とは違い、みんなが集まって何かを成し遂げることが出来ない以上、今回は持久戦です。

 対策としては、たとえば三密を作らないように間引いて環境を良くして……ということもできると思うんです。いずれそういうガイドラインに沿ったやり方はスタートすると思いますが、もっと怖いのはそこでもしクラスターが発生したら、もっとライブができなくなってしまう。そう考えると、どんなに人が万全の対策をとったとしても、無理なものは無理だと思います。医療関係者がここまで感染していて、万全の対策をとっているはずの方々すら危険のリスクをはらんでしまうという現状を目の当たりにすると、僕たちが今できる対策も絶対ではないという怖さがありますね。

ーーライブ・イベントを徐々に再開していくにあたり、現時点で現実的な方法はあるのでしょうか。

中西:ソーシャルディスタンス、フィジカルディスタンスを取りながら、どういう形でできるかに加え、演出の問題なども絡んでくること、あとはリハーサルの問題も今問われているので、その課題を一つひとつクリアしてどこまでできるか模索しながら、年内ぐらいに再開するモデルケースは出てくると思います。ただ、ライブは飛沫感染の可能性があるので……どうしてもみんなライブで声を出しますもんね。それができないということであれば、本来のライブの形を取り戻せるかと言われると、すぐには取り戻せないのではと思います。

ーー中西さんの視点からみて、コロナ収束後コンサートビジネスはどう変わっていくと思いますか。

中西:普通にライブに行けるようになったとしたら、今までの形で開催できると思うのですが、それまでみんな持つかどうかというのが一番大きな問題です。そして、日本中の景気が悪くなっていて、資金的余裕があるのかとか、違うフェーズの問題がたくさん起こってくると思います。世の中の経済活動が戻ったとしても、一番最後に通常の形の環境での再開となるのが、我々の業界でしょう。とても長い期間耐えなければなりませんが、もうすでに耐えきれない人も多く出てきています。僕たちは、雇用を守らなければいけないですが、現時点でコンサート専門のアルバイト会社は、仕事が0なのが現実です。そこにいるフリーランスのアルバイトの方への影響もありますし、大学生の方などが「アルバイトがないから大学を退学しなければいけない」という話にも全部つながっている産業だと思うんです。政府からの補償の話もありますが、これが潤沢でないと力尽きてしまう人はたくさん出てきます。

 また、スタジオミュージシャンたちも今はレコーディングができないし、ローディーも仕事がない。音楽を生業としてやっている人たちや、舞台を作る方々の仕事もなくなっている。この状況が一年続くと「この仕事に従事していていいのか」とみんな考えてしまいます。なのでライブを再開させるときには、ワクチンと治療薬という現実的な要因と、そこまでエンタメ事業に従事していた方々への補償がどのくらいあるのかなどを厳密に計算しないと、再開プランというのはなかなか難しいですね。今その問題については日本音楽制作者連盟(音制連)、日本音楽事業者協会(音事協)、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)の3団体で考えていて、基金を立ち上げるとか、そういう方向性は進み始めています。僕たちの業界で脱落する人をどれだけ救えるかというのは、大きなテーマです。

ーーイベンターとして、今後音楽市場を復興に導く可能性はどこにあると考えますか。

中西:経済的には、今後もしライブが再開できるようになれば、ツアーは観光業と直結しています。当分海外からの観光が難しくなるとすれば、内需拡大がどうしても必要になってきます。ツアーが行われると新幹線や飛行機などの交通機関も利用するし、ホテルに宿泊する人も多い。各地で飲食ももちろんしますよね。そういった観光産業の復興や内需拡大に向けてのプロジェクトとしては、ライブ・イベント産業はすごく有効だと思っています。

ーーこれからも音楽文化を絶えず発展させていくため、大切になることはどのようなことだとお考えですか。

中西:まず僕は“民意”を勝ち取らないといけないと思っています。これだけ閉塞感に溢れてしまった人々の暮らしの中で、音楽やスポーツを生で見ることは心を豊かにしたり元気付けるものだ、と思っていただけるところまで持っていかないと、今のままではライブをすることが悪になってしまうし、人の生死に関わる問題にもなってしまう。なので、軽々しく復興と言いづらいところはありますが、この産業に携わっている人たちが力尽きないように、どんな形でもいいので模索していかなければいけないとは強く思っています。今の状況はどうしても壊せるものではないので、やはりこの大きくなった産業自体を守ることと、再開に向けてのガイドラインを本気でみんなで作り上げていくということと、それによって民意を得られるような考え方で進んでいくしかないのかなと思っています。

ーー今後、事業を再開できる未来がやってきたとき、どのようなエンターテインメントを提供したいですか。

中西:精神論にも近いのですが、世の中がワクチンも治療薬もでき、心が落ち着き始めた頃、急速にエンタメを求める声が強くなると思います。こんなに辛い世の中でみんなが我慢して耐えてきたんだから、「弾けたい」「楽しみたい」という多くの人の願いを叶えるのは僕たちが提供しているエンターテインメントだと思うんです。これは音楽だけではなくスポーツなどもですが、エンターテインメントはやはりそこが拠り所になっていると思うんですよね。僕はスポーツも好きなんですが、今は全然スポーツの試合なども行われていないので、すごく心が塞がってしまっています。日本よりもひどい状況になっていたドイツでは、サッカー・ブンデスリーガが無観客で再開し始めましたし、色んな国のモデルケースができてトライアルを繰り返していくと思うので、それは見守りつつ、いいと思うものは日本でも取り入れていければと思っています。

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