LiSA「紅蓮華」が『鬼滅の刃』とともに愛され続ける理由は? 作品そのものに寄り添う歌詞などから考察
「紅蓮華」はアニメのOPテーマであり、言ってしまえば漫画とは直接関係がない。それにもかかわらず、漫画の展開とともに曲が愛され続けているのは、「紅蓮華」が(アニメのみならず、漫画も含めた)『鬼滅の刃』作品群に寄り添った楽曲である証といえるだろう。
『鬼滅の刃』には、人を食らう「鬼」と化した人間と、鬼を退治する「鬼殺隊」側の人間が登場する。鬼になった者にも、鬼殺隊になった者にも、その者特有の“今に至る背景”がある。ほとんどのキャラクターが過酷な過去を持っている。例えば、主人公の少年・竈門炭治郎は鬼殺隊に所属する人物。彼が旅に出るまでには、鬼に家族を皆殺しにされ、唯一生き残った妹・禰豆子は鬼と化してしまい――という経緯があった。
過酷な過去を背負いながら、ときには倒れていく仲間の屍を越えながら、『鬼滅の刃』のキャラクターたちは戦いを続けている。つらい経験を闘志に変えて前を向いている。『紅蓮華』のモチーフとなっている蓮とは、泥から出てきても汚れることがなく、綺麗な花を咲かせることのできる植物。その佇まいを感じさせるフレーズの数々が、『鬼滅の刃』の世界で生きる彼ら彼女らを彷彿とさせるわけだ。
「紅蓮華」の歌詞を書いたのはLiSA自身。LiSAの楽曲制作に携わるクリエイターは多数いるが、彼女自身もまた優れたソングライターである。アーティストとしての自身の物語を直に投影させながらも“作品に寄り添う”ことに重きを置いた言葉選びに定評があるのだ。そういう意味で「紅蓮華」における最も象徴的なエピソードは、1番サビの歌詞変更。「紅蓮華」は一部の歌詞がTVアニメバージョンとフルサイズで異なっているのだが、それがキャラクターの心情を配慮した結果であることを彼女はブログで明かしている(参照:LiSAオフィシャルブログ「今日もいい日だ」)。
ソングライティングはしっかり実を結び、SNSでは「原作を読んでから改めて聴いたら感動した」という声が続出。さらにそこから発展させ、アニメでは放送されなかった2番の歌詞に触れながら「『紅蓮華』はあのキャラクターの歌なのでは」「いや、あのキャラクターのことを歌っているようにも聴こえる」というふうに、考えを巡らせているファンも少なくはないようだ。
そして、この“「紅蓮華」は誰の歌か議論”に『鬼滅の刃』の作品性やファンの性格が深く関わっていると思われる。『鬼滅の刃』に登場するキャラクターは、端的に言うと個性が強い。まず、服装や髪型、口調、性格などに際立った特徴がある。加えて、その人物が生死の境をさまよった際には回想シーンを通じて過去のエピソードが語られ、彼(彼女)が鬼殺隊隊員(鬼)になった背景が明らかになる構成になっている。シンボリックな外見的要素から「かわいい」「かっこいい」「美しい」といった印象を抱き、内面的要素の深掘りを受けて、キャラクターに感情移入する。そういった段階を経て、自身の“推し”にあたるキャラクターに対して強い愛情を抱くようになる読者が多いようだ。このように各キャラクターに非常に熱量の高いファンがついていることが“「紅蓮華」は誰の歌か議論”に結びついているのではないだろうか。
『鬼滅の刃』に寄り添うことで人気を集めていった「紅蓮華」だが、ユーザーの欲求は“聴きたい”だけでなく“歌いたい”にまで広がりつつある。フェーズ変化の兆候は昨年の時点から見られたが、今年に入ってからその傾向がより強くなってきているのだ。
数値データに話を戻すと、まず“Billboard JAPAN Hot Animation”のカラオケ指標において、2019年12月16日付(12月2日~12月8日集計)から2020年4月13日付(3月30日~4月5日集計)までの間、「紅蓮華」はTOP10をキープしていた。なお、4月20日以降は、緊急事態宣言などに伴う外出自粛要請をふまえ、カラオケ指標の集計自体がストップしている。また、TikTokでは、歌唱(演奏)動画や、「紅蓮華」をBGMにダンスやイラストを披露する動画の投稿が増加。“TikTok週間楽曲ランキング”では、2020年2月末から3月初め(2020年2月24日~3月1日/3月2日~3月8日集計)に2週連続で首位を獲得し、最新チャートでも11位に位置づけている(2020年4月27日~5月3日集計)。
さらに「紅蓮華」はプロのボーカリストをも惹きつけている。YouTubeではまふまふ、広瀬香美、ポルノグラフィティの岡野昭仁らがカバー動画を公開。さらに地上波の音楽番組では、X JAPANのToshIが『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)でカバーを披露。ファーストサマーウイカは『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』(フジテレビ系)でモノマネを披露した。これら5件はいずれも2020年に入ってからの出来事である。
2019年のヒットソングとされていた「紅蓮華」は、ここからさらに、その波の及ぶ範囲を広げていくことになるのだろうか。引き続き、動向を見守りたい。
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。