YOASOBI「ハルジオン」からカツセマサヒコが考える、“音楽と物語”の関係性 両者が影響しあうことで生まれる没入感が魅力に

YOASOBIから考える“音楽と物語”の関係

 筆者は仕事で掌編小説を書くことがあるので、原作者側の視点からもYOASOBIの話をしたい。

 文章を読むには「文字を追う」必要があり、受け手の能動的な行為が発生する。そのため、テキストコンテンツにおける物語のスピード感は、最終的には受け手に委ねられている。

 その点、映像や音楽は、作り手に作品のスピード感をコントロールする権限が委ねられている。BPMをいくつに設定するか、カットをどのように割るか、一つ設定を変えるだけで、受け取る印象は大きく異なってくるはずだ。

 また、小説は脳内でビジュアル化するための「想像力」を読者に委ねる要素が大きく、音楽には歌詞やメロディの意図を紐解く「解釈」を視聴者に委ねる要素が大きい。

 この違いを意識して作品を作ると、音楽や映像は、小説では表現しきれなかったスピード感を見せることができるし、小説は、歌詞やミュージックビデオの再生時間内で描けなかった作品の背景を補てんすることができる。

 しかし、上記のような相乗効果をもたらすには、「それぞれの作品が高い水準で自立し、完成されていること」が前提にある。楽曲をわざわざ言葉(それも長文)にして表現するのだから、一歩間違えれば受け手の解釈を狭める原因にもなり得るし、文章を映像化することによって、想像力を妨げる可能性もあり得るのだ。

 大好きだった漫画や小説が、アニメ化や映画化された途端、自分の想像と乖離して愕然とした経験はないだろうか。あの感覚を思い出してもらえればわかるように、表現を交ぜることは、常に諸刃の剣を構えた状態だといえる。

 そうした“物語と楽曲の危うい関係”から考えてみても、今作「ハルジオン」は、原作に干渉しすぎず、お互いを解放し合うように楽曲を制作することで、突き抜けた作品となることに成功している。原作を読んでからミュージックビデオを見てもいいし、楽曲を聴いてから原作を読んでもいい。両者が影響しあうことで生まれる “物語への没入感”こそが、YOASOBIの真骨頂であり、多くのファンを惹きつけている魅力だと言える。

 最後に楽曲タイトルが「ハルジオン」である点にも触れたい。庭先やコンクリートの隙間から知らぬ間に花を咲かせるハルジオンには、雑草ならではの物悲しさの中に力強さやひたむきさ、しなやかさがあり、これは楽曲の持つ疾走感と力強さ、それに相反するように綴られた過去に固執する歌詞が馴染む。また、紫苑属の花言葉は「追憶の愛」であり、これは原作『それでも、ハッピーエンド』の物語とも深いところで繋がっている。

 音楽が物語を拡張し、さらなる没入感を生み出す。その対象は小説に留まるものではなくなるかもしれないし、YOASOBIこそが、あらゆる物語のそばに力強く咲くハルジオンのようになるのかもしれない。

【合わせて読みたい】
YOASOBI「ハルジオン」原作者・橋爪駿輝が語る、音楽と文学の融合「文章が別の形へ昇華されていくのはエキサイティング」

■カツセマサヒコ
1986年東京生まれ。大学を卒業後、2009年より一般企業にて勤務。
趣味で書いていたブログをきっかけに編集プロダクションに転職し、2017年4月に独立。
ウェブライター、編集として活動中。2020年6月、初小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)を発売予定。

■リリース情報
2020年5月11日(月)配信リリース
「ハルジオン」
作詞・作曲・編曲:Ayase/歌唱:ikura
原作:「それでも、ハッピーエンド」(橋爪駿輝・著)

電子書籍版「それでも、ハッピーエンド」(橋爪駿輝・著)
5月11日(月)よりReader Store、kindle他主要電子書籍ストアにて順次配信
価格:300円+税
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■関連リンク
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