YOASOBI「ハルジオン」からカツセマサヒコが考える、“音楽と物語”の関係性 両者が影響しあうことで生まれる没入感が魅力に
“ストーリー性のある音楽”に魅力を覚えたきっかけは、いつだったか。33歳の自分の人生を辿ると、思春期に聴いたBUMP OF CHICKENの「K」が蘇ってきた。
歌詞の中に主人公がいて、別の世界の何処かで、リスナーと同じような苦しみや逆境と戦っている。その姿に自分を重ねて、勝手に応援したり、泣いたりしていたのが、もう20年も前のことかと驚く。
「音楽と物語」の関係は、切っても切り離せない。数々のドラマや映画、アニメとタイアップした主題歌たちがそれを“物語って”きたし、詞の中に物語をとじこめる手法も、ずっと昔から存在していた。二つの関係は、常に近い距離にあったと言える。
そして2020年。「音楽と物語」の歴史を語る上で欠かせないユニットが、躍進を続けている。YOASOBIだ。
“小説を音楽と映像で具現化するユニット”を名乗るYOASOBIは、昨年末リリースの初音源「夜に駆ける」で、今年1月9日付のSpotifyバイラルチャート1位を獲得。続く「あの夢をなぞって」もYouTube再生回数200万回(5月12日現在)を突破し、多くのメディアが注目しはじめた。5月11日に配信リリースされた新曲「ハルジオン」については、地上波のニュース番組でも取り上げられ、SNSでトレンド入りするほどとなっている。
YOASOBIは「ボカロP・Ayaseと女性ボーカル・ikuraのユニット」であり、アニメーションで作られたスピード感のあるMVが印象的だ。その点を切り取ればヨルシカが近い存在に思えるし、TikTokでも頻繁に楽曲が使用され、ティーンに人気なところでいえばずっと真夜中でいいのに。と似たような捉え方もできる。
また、「小説」と「音楽」といった別ジャンルの融合にチャレンジしている存在といえば、過去に小説や漫画がシリーズ累計900万部を突破したボカロP・じんによる「カゲロウプロジェクト」も浮かぶけれど、YOASOBIの作品が「作家とコラボレーションし、音楽と物語が深いところで繋がって、互いを高め合う」意味では、遡れば“ジブリと久石譲”のような関係にも思えるし、最近でいえば“新海誠とRADWIMPS”のようなものでもあるとすら思う。
RADWIMPSの「スパークル」が流れれば自然と僕らの脳には『君の名は。』の特定のシーンが描かれるし、さらにそこから、2016年当時の自分の情景や心境を思い出す。「元カノと観ました」「出産前に観た最後の映画でした」。音楽や匂いや文章などの外的要因から過去を感傷的に思い起こすことを筆者は「エモ」と定義しているけれど、YOASOBIの新作「ハルジオン」および原作となった『それでも、ハッピーエンド』(橋爪駿輝・著)も、この側面が強い。
戻れない青春の終わりと、色彩を失った現在。そのコントラストを「換気扇の下、センチな気分に酔って、あなたが吸っていたのと同じ銘柄の煙草に火をつけてみる」(本文引用)といった情緒的な描写で綴った原作『それでも、ハッピーエンド』に対して、YOASOBIの「ハルジオン」はセンチメンタルなイントロと躍動感ある演奏、フックのあるメロディ、透明度の高い歌声で応えてみせた。音楽・映像・小説の三要素がいずれも少しずつ別の側面を見せるから、作品が立体的に見えてくる。