星野源『Same Thing』について、いま語り得ること 高橋芳朗とDJ YANATAKEが考える作品の真価
「サブスク解禁」の先にあった『Same Thing』
ーーそう考えると、星野さんが『Same Thing』をそもそも売りものにするかわからない状態でつくっていた、あるいはミックステープとして出そうとしていたっていう事実も示唆的ですよね。
YANATAKE:そうですよね。そういうとんでもないアルバムをつくり上げて、次に何をしようかって考えたときに「ミックステープをつくろう」っていう考え方がかなり面白いし、いい意味で狂ってる(笑)。
高橋:僕も『Same Thing』の元々のミックステープ構想を聞いたときは耳を疑いました。「え? ミックステープですか?」って(笑)。でも、『Same Thing』には最初のミックステープ構想の名残があると思うんですよね。きっとそれは星野さんが自分の好きなことをのびのびとやっている開放感やカジュアルさからきているんじゃないかと。
YANATAKE:だから、これがサブスクとかでディスコグラフィーを解禁したあとに出た初めての作品っていう意味では、すごく理解できる。EPっていうボリューム感もそうだし、初めてのコラボレーションであるとか、英詞で歌ったこととか、ジャケットのデザインとかも……星野さん自身が本当に音楽好きだから、この作品の意義と意味がしっかりと出たんじゃないかな。
高橋:それを肩肘張らずにやってるところがいいですよね。あくまで普段着、“よそいき感”がまったくない。
YANATAKE:普通の国内アーティストだと、サブスクって「解禁」でやっぱり終わっちゃうんですよ。だけど、今回『Same Thing』が出たタイミングでアメリカのApple Musicのトップに大きくバナーが出たし、iTunesもそうだったし……。で、しかもアップルのCEOとご飯を食べに行っちゃったりもしてて。想像を超えたレベルで規模感がデカい(笑)。日本って音楽に対してすごくお金を使う国だから、サブスクやストリーミングの次の市場としても確実にポテンシャルがあるはずで。そういう状況をアーティスト自らうまく利用していくっていう戦略も面白いなあって。
高橋:Beats 1で『Pop Virus Radio』をやったことも大きかったですよね。その意義やすごさがいまひとつ日本では伝わりきっていないことに多少のもどかしさを感じますが。
YANATAKE:Beats 1を知ってる人からすると「マジかよ!?」って思うよね。あそこからバズったりブレイクしたりすることって、めちゃくちゃ多いから。だからのちのち、日本でサブスクがもっと根づいてきた頃に「あれはすごかったね」って、『Same Thing』も含めて、今以上に星野さんが2019年にやったことが再評価されるんじゃないかなあ。